私は邪魔者だけど【歌い手】

第93話 ページ4

〜No side〜

ぐるぐる ぐるぐる ぐるぐる


『はあ、っ…は、ぁ、っく……はあ…、』


がたがた がたがた がたがた


『…あ、いや……やめて、っ！こわい…！』


どたどた どたどた どたどた


『お、にい…ちゃ、ん……？っ、お兄ちゃん！！お兄ちゃん！！！！』


世界が歪んで

大きく揺れて

響き渡る崩れる音

少女は走る走る走る

足を進めるたびに先は見えなくなっていく

闇雲に色のない世界をただ走る

お兄ちゃん、と叫びながら

走れ走れ走れ

この世界が終わるまで


『お、にいちゃ、あ………ど、こ……？たすけ、て、ぇ……！』


足が悲鳴をあげたって

喉が張り裂けそうになったって

どれだけ体がボロボロでも

走って走って走って


「…………A、こっち、こっちだよ」

『おにい、ちゃ……？』

「ほら、手出して？俺が連れてってやるから」

『おにいちゃん………お兄ちゃんたすけて……』

「うん、助けてあげる、だから絶対この手、離さないでよ」



青年の手を握り、青年に連れられ、先ほどよりも早く走る

息苦しそうになるたびに、青年は少女に声をかける

少女はその声を聞いて、また走る

一目散に、目の前に向かって走り続ける

出口のない目の前を、出口を探して走り出す

光を目指して＿＿









〜坂田side〜

坂「そらるさん、俺たちと話してないで、Aちゃんのこと見ててくださいよ」

そ「……今更だけどさ、なんか怖くなっちゃって」


もう逃げ出したりしないって決めたのにな

そう呟いた彼は悔しそうに微笑んだ

Aちゃんの方は目を向けると点滴のせいかおかげか、決して穏やかな顔とは言えないが、発作は治まっている

時折ぴくぴくと小さな痙攣を起こすが、せめてもの薬への抵抗なのだろう


坂「…頑張ってる妹に、お疲れって一番最初に声をかけるのがお兄ちゃんの他に誰がいるんですか」

そ「んー、お医者さんとか？」

坂「ふざけないでください、本気で言ってるんですからね？」

そ「ごめん、まだちょっと勇気が出ないだけなんだよ、許して」

坂「背中叩きましょうか？」

そ「遠慮しとく」


そう言ってそらるさんは少し早足で戻っていった

一瞬だけ見えた綺麗な横顔は、さっきみたいに悔しそうな微笑みではなく、すっきりしたような、そんな感じで


坂「そらるさんは、そうやって笑ってる顔が一番綺麗なんやで」


聞こえないように彼に向かって呟いた

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