仕事_30 ページ13
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『そういえば、最近よく薬研に世話されている気がする』
一期「と言いますと?」
『夕餉でピーマンを口に放り込まれた』
一「……申し訳ありません」
『いや、確かに薬研の言う通り、好き嫌いは良くないからな』
一「………」
一期は時折弟たちに、好き嫌いは良くないと言い聞かせていた。
そして、嫌いだと言って食べないものをその人の口に突っ込むのは、一期自身が得意とする手法だった。
特に薬研は頑として椎茸を食べようとしないので、そのたびに、親鳥のごとく口の前まで持っていって食べさせるのだ。
だが、それも弟がやっていたと。
一期は何かを言いかけ、思い止まる。
薬研もA殿の前では、良く見せたいのだろう。
…私もそうなのだから、違いない。
そう黙々と思考を巡らせながら乾かしていると、ふいに目の前の少女がかくんと頭を揺らした。
ずっと髪に触れていたからか、眠たくなってしまったようだ。
一期は穏やかに微笑むと、素手で彼女の髪をすくい、確認するように手櫛をとおす。
一「…A殿、乾きましたよ。お部屋まで歩けますか?」
『………』
ほぼ寝かかっているAを無理に起こすのも可哀想だと思い、普段弟たちにもそうしているように 彼女を横抱きにして、部屋まで運んだ。
そのまま茵(しとね)に寝かせ、肩あたりまで袿をかける。
一「………おやすみ、A」
珍しく呼び捨てで名を呼び、そっと頬を撫でた。
その手に頬擦りするAに、一期はいとおしげな眼差しを向けている。
だがその瞳が、ほんの少しだけ悲しい色をしていることに、気づく者はいなかった___
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作者名:葛の葉 | 作成日時:2018年5月17日 0時