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仕事_29 ページ12

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『……まだ口の中が苦い…』





露天風呂につかりながらAはひとりごちる。



先程の夕餉で、慎重かつ丁寧にピーマンを避けて食べているところを薬研に見つかったのだ。



__「好き嫌いは良くねーぞA。ほら、口開けろ」__



そう言ってAの口に大量のピーマンを突っ込んだ薬研は、なぜだか少しばかり得意気な様子だった。



今晩の夢にピーマンが出てきそうだ、などと思いながらAは僅か一分で湯を上がる。相変わらずのぼせるのが早い。





『……歯磨きしよう』





いよいよ苦味に耐えられなくなったのか、Aは風呂を出てすぐに歯を磨いた。





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一期「おや、A殿、髪が濡れたままでは風邪を召されますよ」





縁側にちょこんと座って庭を眺めているAを見つけ、一期は優しく声をかける。





『少し、のぼせた』



一「そのようですな。私でよろしければ髪を乾かしましょうか」



『ああ、お願いする』





Aからタオルを受けとり、優しい手つきで髪を拭いていく。





『兄弟だからか、薬研と似ているな』



一「!! 薬研が、A殿の髪を?」





驚いて聞き返すとAはこくんと頷く。





『ちょうどこんな風に、乾かさずに出歩くと時々見つかって』





そして呆れたように、しかしどこか嬉しそうに言うのだ。



__「ほら、こっち来いよ。乾かしてやる」__





一「ふふっ、そうですか。薬研が…」



『ん??』



一「実は薬研も、自分では滅多に髪を乾かさないのです」



『…では……』



一「ええ。私が乾かしております」



『だから似ているのか』



一「おそらく」





そう言って一期は苦笑を滲ませる。


自分の髪は乾かさないというのに、彼女のは喜んで乾かす と。


まったく、隅に置けない弟だ。

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作者名:葛の葉 | 作成日時:2018年5月17日 0時

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