あの日の恋が嘘みたい。【歌い手】

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＊side you

「私、彼氏がいるの」
「…うん、」
「あの日の志麻さんと同じだよ…気持ちを優先出来ないときって、あるの」
「知ってる」
「だからね、もう本当に終わりにしよう」


これ以上想いたくない。
そう伝えられた筈だ。

不毛な両片思いを続けていたって、誰も幸せになれやしない。
それなら、たとえ偽りの愛でも受け取る方がずっと楽で幸せだ。

私達の恋はきっと、恋と呼ぶには哀しすぎたんだ。


「じゃあ…もう、忘れろって事？」
「そうなるね。だって、志麻さんも彼女、」
「おらん。俺はこの3年、ずっとAしか見てこんかったから」
「…嘘、」
「嘘やない、ちゃんと見て、知って。Aが終わらせたいんならそれでええから…」


右から左へ流れる人混みの中で、涙を流したって誰も気づかないなら大丈夫だろうと一筋だけ零した。
志麻さんだけが、ずっと不安げ…というか、今にももらい泣きしそうな顔をしている。

ここでヒロインなら、「私なんか忘れて次の恋を」とか言うんだろう。
でも、私はヒロインじゃないからそんなこと言えない。
言いたくもない。


私に出来るのは、この想いをぶつけることだけ、だ。

3年前突き飛ばした志麻さんの胸元に身を寄せると、どくどくと鼓動が聞こえた。
もう彼との約束なんかこれっぽっちも思い出さないまま、涙を志麻さんのシャツに染み込ませた。

そのまま抱き締めあって、気づいたら懐かしいマンションだった。
ベッドの下に散らばる衣服が生々しくて、やけに淫靡。
携帯は鳴りっぱなしで、そろそろ充電が切れそうだ。
私が知らないふりをしていることも知らず、彼はずっと心配し続けているのだろうか。
だとしたら、不毛にも程があるな、と少しだけ笑える。




偽りの愛も本当の恋も味わう方法は、これしかなかった。
そう言い訳づけるしかこの状況に終着点は無い。

すれ違った想いを縫い合わせて、また１つになった。
その燃え盛り方は3年前のガキっぽいものとは程遠く、それこそ獣のように戯れ、愛を謳い、身体を確かめあった。
それしかあの悲しみを埋める方法がなかった。


もう全然純粋とかプラトニック性は取っ払われた、どろどろと鈍い音を立てるしか能のない恋になってしまった。
断然こちらの方が燃え上がるのは承知の上だ。

それでも少し、少しだけ、淋しくなる。


あの日の恋は、嘘だったのか、と。

嘘だったなら、どれだけ嬉しかっただろうか。

【坂田】愛しいお別れ/sera→←＊

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