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談笑する声が夜に吸い込まれたその時、五条が自然な動きで永広の唇を奪う。
それは、死ぬほど優しいキスだった。
「…今日はダメ?」
「流石に明日の授業に響かせる訳にはいかないだろう」
「遅刻すればいいじゃん」
「遅刻してどうにかなる問題じゃない」
キスをものともしない永広は、ようやく力の抜けた五条の腕をやんわりと外す。次の瞬間、永広の携帯が音を立てた。
無機質な着信音を止めるがため、電話に出る。
「もしもし、永広だ。……ふむ、ここから10分だな、分かった、すぐ行く」
簡潔に話を切り、携帯をまたポケットにしまった。走り出そうとした時、腕を掴まれた。掴んだのは、紛れもない五条。
「行くなよ。任務は打ち切ったはずだ」
「これは個人的な任務、窓に、近くで起きた事故は駆けつけられるように連絡しろと言ってあるからな」
「なんでAがやる」
「私が、ヒーローになる為」
述べた回答に納得のいかなそうな顔をする五条。永広は、1度五条に近寄って、「分かってくれ」と頼んだ。
それでもなお、痣がつくほど腕を強く五条。しかし、それは一瞬にして解かれた。
A、と名前を呼ぶ声が、途中で掠れながら五条の口の端から零れる。
今度は永広が五条に口付けをした番だった。
油断していた五条は呆気なく手を離す。
「救われたければまた呼び出してくれ」
「…じゃあ、朝日が昇る前に帰ってきてよ。手酷く抱いてやる」
「勘弁してくれ。じゃあ、また後で」
優しさを土足で踏みにじるその発言を、永広は受け入れて人助けに向かった。
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作成日時:2021年3月9日 0時