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「いつの間に考えたんだい?足に武器を仕込むなんて」
無事祓除を終えた帰り道、夏油は永広にそう尋ねた。
「武蔵さんに教わった。思わぬ所に隠してある武器こそ、真の戦いで真の力を発揮するって」
「武蔵さんと言うのは、村の人?」
「うん」
永広のやけに慣れた戦い方に、夏油はなるほどと呟く。やはり、特級呪術師の蓮川櫻子“だけ”の賜物ではなかった少女のようだ。村にいた様々な術師の結晶。あらゆるものからあらゆるものへと知識をふくらませていた。
「この調子なら、1級呪術師までそう遠くなさそうだね」
「分からない。今回は呪具があったけれど、次は無いかもしれないから」
「じゃあ術式も完成させるのか」
そのつもりだと頷いた永広に、夏油は笑顔を返す。
「何故、術師になる事を決意したのかい?」
「婆さまに言われたから…と言って誤魔化していたのが、つい最近」
「今はどうなんだ?」
永広は質問に即答した。潔く、いっそ恥ずかしいほどに真っ直ぐ。
「ヒーローになりたい。貴方のような人に」
「……私?」
「人を安心させられるのがヒーローだと、幼い頃見ていたテレビの登場人物が言っていた。だから私は、私という人間が色んな人の安心を生めるようになりたい。色んな人の安心になりたい」
いやはや、幼い子供の戯言のような夢物語。ヒーローなんているものか、自分達は呪いを司ると言うのに。
しかし、夏油は否定をしなかった。
「いいんじゃないかな。素敵な目標だと思うよ」
「ありがとう。正直、からかわれると思っていたから嬉しい」
永広がほんの少しだけ微笑んだ。さながら蕾が花を開きそうになるほど柔らかな笑顔に、沈黙が走る。
足を止め、夏油は呆然とする。永広が首を傾げた頃に、沈黙を破った。
「っはは!」
「どうかした?」
「フフ…いや、モヤモヤしていた事に納得がついて、思わず」
「……よく分からないけれど、楽しそうでなにより」
日が傾いて、橙色に道を照らしている。何とも阿呆らしい五条の顔が浮かんでしまった夏油は、しばらく笑いを止める事が出来なかった。
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作成日時:2021年3月9日 0時