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episode 7 ページ8

「落ち着いたか?」

デパートから離れた公園のベンチで、私は康成の問いかけにこくりと頷いた。
ファンタを渡されて、けれども私はそれを飲んでもいいのか躊躇してしまう。

お義母さんがモデルで、常に体型を気にしていると云う事もあって、畑峰家には甘い食べ物が存在しなかった。おやつはサラダ。昔は貧民街を彷徨っていたから、ファンタなんて飲む事は勿論、持つ事も初めてだ。

それに、お義母さんは口癖のようにこう云っていた。
『炭酸飲料なんて、躰に悪いだけよ。そう云うの飲んでる人が糖尿病になって、死んじゃうんだから』

ファンタのペットボトルを掌の中でコロコロと転がす。中でしゅわ、と音がして、何だか心地よかった。
「あ、義姉ちゃん、あんまり回すと開ける時大変だぞ。炭酸だから」

理由がよく判らなくて、首を傾げながらも回し続ける。すると、取り逃がしたペットボトルが地面を転がって行ってしまった。
「あ、ファンター!」

やっとの事でペットボトルを摑むと、私は覚悟を決めた。
ファンタ、飲もう。
蓋を開けようとした時、駆け寄ってきた康成が叫んだ。

「義姉ちゃん、待て!開けるな!」

時既に遅し。
ぷしゅ、と音がして、開いた!と思った次の瞬間、ファンタの紫色の液体が噴水のように空に向かって吹き出していた。

ファンタの甘い雨は、私と康成、通りすがりの幼女に降り注ぐ。
「義姉ちゃん………」
康成に無言で睨まれて、私は空っぽになったペットボトルを間に挟んで、両手を合わせた。

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作者名:茉里 | 作成日時:2019年7月7日 13時

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