妹を返して。【文スト】 (ページ5)

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episode 4 ページ5

「櫻子君。………本当にいいんだね？」

首領が、最後の確認のようにわたしに尋ねる。
わたしはにっこりと笑って、大きく頷いた。
「ええ。覚悟は変わりません」
「君のお姉さんの居場所はもう判っているのだよ？会いに行こうとは思わないのかい」

「駄目です」
珍しく反抗したわたしを、首領は驚いた表情で見つめてきた。
「姉様はわたしに会っては駄目なんです。わたしと会ってしまったら、………姉様の生きる目的がなくなってしまう」

姉様。
昔、わたしを見捨てた姉様。あの時は憎しみしかなくて、姉様に反発するようにポートマフィアに入ったけれど、今なら判る。
ああするしかなかったんだ。兄さん(・・・)には、それだけの力があった。

「けれどもいずれ、姉様はわたしがここにいる事をきっと突き止めます。その時は_____ここを出て行きます」
胸の前で拳を握り、思わず俯く。何故だか判らないけれど、目に涙が浮かんできた。

会いたい、でも駄目。
姉様はきっと、兄さんだけを憎んでいる。
本当は、わたしだって憎まなきゃ駄目なのに。
わたしだって、姉様を憎まなきゃ駄目なのに。

「君の覚悟は判った」
首領はそう云い、視線だけでわたしに語りかける。
わたしは黙って部屋を出て行った。

「よう、櫻子」
扉を閉める音に滑り込むようにして聞こえた声に、顔を上げる。
「あ、中原幹部」

片手を挙げて挨拶する中原幹部に、泣き笑いのような顔を向ける。
「わたし………」
何を云いたかったのかは判らない。

けれども口をついて出た言葉をそのままに、わたしは逃げるようにその場を後にした。
中原幹部は、追いかけてきたりしなかった。