ちゃんと【ハイキュー!!】【北信介】

６月・続々 ページ10

.






『凄い水やなあ……』






『土地神』は堤防の上から川を見ていた。

心做しか表情は暗い。






『今日は晴れとったからな……
他の田圃はあんまり対策してへんのか……』






雨や風で稲が倒れていく。






『台風も大変やけど梅雨の雨も大変や。』






そのまま堤防の上で景色を見続けて数時間。

東の空から太陽が昇り、明るくなる。






『雨は弱なったけど……川は危ないわ。
信ちゃん、来たらあかんよ……』






北の家の方を見ていた『土地神』。

そこに小さな人影が見え目を見開く。






『ｯ！』





だんだんと見えてきたのは

北の近所に住む中田さんの姿だった。





『何や中田さんか……
ってそうやないわ、中田さんも危ないやん！

わあ、どないしよ！
帰れ言うても帰らんよな……！！

こんな雨の中子ども居る方が変やもんな！！
あー！！もう！！危ないねん！帰れー！！』





必死に念を送る『土地神』。

しかしそんなものは通じず中田は

水の流れに足を取られる。





「う、ああっ……！！」


『ひぃっ……
信ちゃん……ほらな？どうにも出来んねん。』





『土地神』はオロオロしながら中田を目で追う。





『ｯ……私は助けられへんねん……どうしよ、
神の加護とか使えたら…………加護…………？』





『土地神』は中田に

お社の扉を直してもらった事を思い出す。





『そうやん……ええ事したらええ事があんねん。
ちょっとだけ、ほんの少しだけお返しや。』






『土地神』は勢いよく飛び上がる。






ゆらりゆらりと着物の裾を揺らし、川を見る。

両手を口元に添え『水神』に呼びかけた。






『あの人間を助けたって。』


「何故？」


『お社を直してもろた。命は奪わんでええやろ。』


「貴女の一存でどうにかなると思うか。」






『忘れたか水神。私は『土地神』やぞ。
この辺り一帯は私のそのものや。

お前も私の一部から出来てんねん。
消そうと思えば消せるんやぞ。』






「ｯ……」






冷たく響く『土地神』の声に

焦りを見せた『水神』は白くて長い腕を振って

川の水ごと中田を陸に流れ着かせる。






『おおきにな、水神。』


「……あまり人間に感情移入してはならん。」


『……分かっとるよ。』






『水神』は蛇のような体をくねらせて

濁流の中に姿を消した。






『ああ……雨、やんだな。
信ちゃん来るやろか。中田さん助けたってや。』


.









『土地神』はそう呟いた。

６月・続続々→←６月・続

→ 目次へ｜作品を作る｜感想を書く
他の作品を探す