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6月 ページ8

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「今日は晴れたなあ。」





ジメジメの梅雨の季節。

やっと晴れた今日、北は稲の成長を記録していた。





Aは湿った草の上に座って

ぼんやり青空を見上げていた。





そして不意に立ち上がると北を呼んだ。





「どしたん。」


『……信ちゃん、今夜めっちゃ雨降るで。』


「そうなん?」


『あかん、あかんわ。危ない。』





Aはニコリともせずそう告げる。

真剣な表情に思わず北も背筋が伸びた。





『隣の川が氾濫してまう。ここら辺は低いねん。
信ちゃん、稲は心配かも知れんけど
雨止むまで絶対に田んぼ見に来たらあかんで。』



「氾濫、でも…………」



『絶対や。"約束"してや信ちゃん。
川に流されたらどうにも出来んから。』



「……分かった。約束する。」



『信ちゃんも稲なら絶対に大丈夫や!!
やって信ちゃんが育ててんねんで!?
負けるわけないわ!!』



「!」





ぎゅ、と北の手を握るA。

強ばっていた北の表情がふっと緩む。





『明日、ほんの少しでも雨降ってたら
家から出たらあかんよ。』


「分かった。
Aがそんなに言うん初めてやし信じるわ。」


『おおきに、信ちゃん。
きっと昼にはやむやろから、ほんまに約束やで。』





頷く北。

それを見届けたAは

近くに置かれていた麻袋を手に取る。





『でも心配やろ?
そんな時にはコレや!土嚢(どのう)を作ればええねん!』


「!その手があったか。」


『この麻袋な、山ん中にいっぱい落ちててん。
誰のもんでもないから使ってええよ。』


「ほんまに?」


『ほんまのほんまや。信ちゃん嘘嫌いやろ?
泥棒したんともちゃうから大丈夫やで。』





確かに麻袋は山の中に落ちていた。

というか昔お社を囲っていた土嚢の余りだ。

実質『土地神』の物だから問題ない。





その後は2人で土嚢を作っていく。

川に近い方へ高めに土嚢を重ねる。





『あ、信ちゃん少しだけ水の逃げ道作ってな。
そこ斜めにすれば水が逃げてくで。』


「ここか?えらい詳しいなあ。」


『土嚢作りはよう見てたもん。』


「頼もしいわ。」





ある程度の土嚢を積み上げ終えた頃

北は余っていた土嚢を祠の周りに重ねる。





「これで土地神様の祠も流されんやろ。」


『!ほんまやな。気付かんかったわ……
ありがとうな……こんなんしてくれたの初めてや。』









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北を見送ったAは嬉しそうに微笑んだ。

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沙羅(プロフ) - トロピカーナブランケットツッパーナムルさん» めコメントありがとうございます!!そう言って頂けて本当に嬉しいです!!読んで頂きありがとうございました!!! (2021年7月4日 0時) (レス) id: 1f154ecd75 (このIDを非表示/違反報告)
トロピカーナブランケットツッパーナムル - いやこの作新ガチ好き (2021年7月3日 17時) (レス) id: 99e5f8b903 (このIDを非表示/違反報告)
沙羅(プロフ) - でこりんまんさん» コメントありがとうございます!来て貰えて本当に嬉しいです…!!切ない、でも幸せなお話が書きたかったのでそう言って貰えて私も感涙です……!!!読んで頂きありがとうございました!! (2020年10月26日 12時) (レス) id: 1f154ecd75 (このIDを非表示/違反報告)
でこりんまん(プロフ) - 幼なじみは個性的から飛んできました……!凄く素敵なお話でうるうるしながらよませていただきました……!! (2020年10月26日 8時) (レス) id: 5f3c679f42 (このIDを非表示/違反報告)

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作者名:沙羅 | 作成日時:2020年10月25日 19時

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