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9月・続 ページ23

北信介side






ぬくい。






頬も、手も、足も、全身がぬくい。






優しい温もりに体の力が抜けていく。







ああ、最近はこんなに寝とらんかったなあ。

心地ええ。






ふわふわする頭を働かせて

閉じていた目をそっと開いてみる。






「あれ…………田圃に居ったはずじゃ……」






目の前は枯れ草色で染まっていた。






草と、土。


傾いた藁葺き屋根の家。


干からびた田畑。






「どこや、ここ……」






途端に背筋が冷え、体を起こして立ち上がる。

自分の立っている所が妙に白く光っていた。






「夢、やろか……」






ぐるりと辺り一帯を見回してみると

どこか見たことあるような気もする。






夢ならそのうち覚めるやろか。

ちょっと、歩いてみよか?






土が剥き出しの道を歩いてみる。






川の水が流れる音も、

行き交う車の音も、何もしない。





ただ風の音がするだけ。

…………不気味やな。






「……ここ、お社の階段の所か?
でも坂やな……」






いつもなら石段があるはずやのに。

……とりあえず登ってみよか。






「そういや誰も居らんな……」






坂の途中で振り返ってみる。

眼下の街並みはいつもと全然違った。






「もしかして、現代やないんか……?」






そう呟いた時お社の方から微かに声が聞こえた。






思わず駆け出して声の方に向かう。






駆け上った先にいつものお社は無く、

木の板で出来た小さく簡素な建物があった。






そのまわりを幾人もの人が囲んでいる。

不気味にも程がある。






白い着物のような服を着て

石で出来た飾りを身につけた人達やった。






建物の中に誰か居るみたいや。







何をしているのか、そう近くの人に聞こうと思って

あの、と声をかける。






痩せ細ったその人は何も言わない。

それどころか誰も俺に気付いていない。






「ッ…………」






見えてない、のか。







「宇迦之御魂神よ、大地の神よ。生贄を捧げます。
大地に雨を、実りを、──────」


「生贄!?」






ふと宮司さんの話を思い出す。

昔、この辺りでAという女の子が生贄に…………







「A、なん……?」






どうせ聞こえてないんやろうけど

小さな建物に向かって声をかける。









「誰…………?うちの名前を呼んだの誰…………?」









か細い声が聞こえてきた。

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沙羅(プロフ) - トロピカーナブランケットツッパーナムルさん» めコメントありがとうございます!!そう言って頂けて本当に嬉しいです!!読んで頂きありがとうございました!!! (2021年7月4日 0時) (レス) id: 1f154ecd75 (このIDを非表示/違反報告)
トロピカーナブランケットツッパーナムル - いやこの作新ガチ好き (2021年7月3日 17時) (レス) id: 99e5f8b903 (このIDを非表示/違反報告)
沙羅(プロフ) - でこりんまんさん» コメントありがとうございます!来て貰えて本当に嬉しいです…!!切ない、でも幸せなお話が書きたかったのでそう言って貰えて私も感涙です……!!!読んで頂きありがとうございました!! (2020年10月26日 12時) (レス) id: 1f154ecd75 (このIDを非表示/違反報告)
でこりんまん(プロフ) - 幼なじみは個性的から飛んできました……!凄く素敵なお話でうるうるしながらよませていただきました……!! (2020年10月26日 8時) (レス) id: 5f3c679f42 (このIDを非表示/違反報告)

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作者名:沙羅 | 作成日時:2020年10月25日 19時

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