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8月・続続続続々 ページ20

北信介side





祠を開けて取り出したのは鏡。

神降ろしは何か降りる場所が必要や。





その鏡を割らないようにそっと手に包み

川や田圃が見渡せる高台に登る。





「ッ……ツチノカミ様、どうか、許して下さい。
勝手なこと言って傷付けてしまいました。

俺は、貴女のことを邪魔なんて思ってません。
一緒に居てくれてほんまに嬉しかったんです。

だから、どうか……」





鏡に川も、田圃も写るように掲げる。

雨粒が体を叩きつける。






痛い。

でも、きっとAの方が痛かった。





「A……ごめんなあ…………」





気付いたらそう呟いていた。

不意に川の方から妙な音がして思わず体が強ばる。





水の音とは違う、何や……?

声……みたいや…………





背筋が冷える気がした。

そっと鏡を川の方に向け自分も見えるよう傾ける。





「ッ!?」





なんや、アレ。

川の中に蛇みたいな女の人が居る……!?





ああ、きっと川の神様なんや。

見てええんやろか。見たらあかん気がする。





あ、目合うた。





自分が凄く冷静になるのが分かった。

怖いのに、怖くない。





「……人間か、」





そんな声が聞こえた気がした。

川の水が流れる音にも聞こえた。






「何故、その鏡を持っている。
それは宇迦之御魂神様より預かった鏡ぞ。」



「…………申し訳、ありません。
Aに、ツチノカミ様に謝りたくて…………」






雨で濡れている筈なのに唇が乾く。

蛇のような切れ長の目が俺を睨む。






ああ、蛇に睨まれた蛙になった気分や。

足が、動かへん。






「……ツチノカミは悲しんでいる。
人間の身勝手さに。愛した人間の無慈悲さに。」



「ッ……」



「帰れ。今すぐに。
人間なぞと関わるべきでは無かったのだ。」






地の底から響くような声に足が竦む。

ゾワゾワと伝わってくるのは怒りやろか。





やっぱり、許して貰えへんのか。

でも、それでもちゃんと謝りたい。





「ッ……お願いします、謝りたいんです。
一度だけでええんです。ですから、」


「黙れ!!」






女の人の白い腕が川面を打つ。

それは激しい水飛沫を生んで高台を抉った。





「卑しい人間が……!!
ツチノカミに近付くなど許さぬ!!」





地面が揺れる。

あかん、ここに居ったら川に落ちる。









.








頭では分かっていたけど、足は動かんかった。

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沙羅(プロフ) - トロピカーナブランケットツッパーナムルさん» めコメントありがとうございます!!そう言って頂けて本当に嬉しいです!!読んで頂きありがとうございました!!! (2021年7月4日 0時) (レス) id: 1f154ecd75 (このIDを非表示/違反報告)
トロピカーナブランケットツッパーナムル - いやこの作新ガチ好き (2021年7月3日 17時) (レス) id: 99e5f8b903 (このIDを非表示/違反報告)
沙羅(プロフ) - でこりんまんさん» コメントありがとうございます!来て貰えて本当に嬉しいです…!!切ない、でも幸せなお話が書きたかったのでそう言って貰えて私も感涙です……!!!読んで頂きありがとうございました!! (2020年10月26日 12時) (レス) id: 1f154ecd75 (このIDを非表示/違反報告)
でこりんまん(プロフ) - 幼なじみは個性的から飛んできました……!凄く素敵なお話でうるうるしながらよませていただきました……!! (2020年10月26日 8時) (レス) id: 5f3c679f42 (このIDを非表示/違反報告)

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作者名:沙羅 | 作成日時:2020年10月25日 19時

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