【歌い手】KISS【luz】

kiss45 ページ45

少し、恥ずかしいことを言ってしまったな、

と思っていると、


耳元で、光の声がする。

「いおり。」


一音一音を大切にしているように聞こえるその声は、

少し掠れていて、

名前を呼ばれたというより、名前を囁かれた、という方がしっくりくる。


ああ、これは知っている。

いつも、光が私にキスをする前、この声で呼ぶんだ。


思わずキスをしたときのことを思い出してしまって、

ゾワリとする。


やっぱり少し落ち着かない。

この雰囲気には、いつまでたっても慣れる気がしない。


「、な、に？」


返事をするが声が上ずってつっかえてしまった。

それで、私が少し緊張しているということが伝わったのだろうか。


フフッっとかすかに笑う声がして、

その直後に


チュッ


という短いリップ音。

「へ？」




「いや、今なんかすごく伊織にキスしたくって

　本当は直接会ってしたかったんやけど、


　もう夜だし。

　電話越しだけど、キスさせてもらった。」


「・・・き、す・・。」

理解をするために光が発した単語を復唱する。

「うん、キス。

　知っとる？一応、テレフォンキスっていうんやけど。」


「聞いたことはある。」


ようやく理解ができて、

少し恥ずかしくなる。


どうか、赤くなってるのが光にバレませんように。

kiss46→←kiss44

→ 目次へ｜作品を作る｜感想を書く
他の作品を探す