malus＿1 (ページ32)

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『会いたいとか言って、抱きしめさせておいてそれ？』

「ちが、わたしはただ慰めてほしくて」

なんだよ、なんだよそれ。意味が分からない。
俺は、Aの為に何百回も慰めてきてやったのに。

俺じゃなくてAを幸せに出来ないような男を選ぶなんて、本当にどうかしてる。

『慰めてやっとるやん、なあ。何が駄目なん？どうやったら俺と付き合ってくれる？』

彼女のベージュの瞳を見つめたまま押し倒して逃げられないようにしようとすると、それを邪魔するかのようにテーブルに置いてあったスマホが震えた。

彼女ははっとしたようにスマホに手を伸ばしたが、俺はそれを抑え込むように指と指を絡ませてそのまま押し倒した。

Aの顔をちらりと盗み見ると、涙を溜めた瞳を揺らしながら頬を赤くさせている。
嫌と言っておきながら、案外満更でもなさそうだ。

『もしかして、こういうの嫌いじゃない？』

小さく笑ってそう言ってやると、肩をびくりと跳ねさせたA。
バイブレーションが収まらないスマホを気にする彼女が気に食わなくて、絡めていた指の力を込める。

「や、ちょ、センラ、センラ」

『なに』

「電話、出たいんだけど」

『あー……なに？元彼？』

静かに頷いた彼女にスマホを取らせるわけもなく、俺は彼女の意識を奪うようにキスを落とした。

Aとキスをしたのは初めてだった。勿論彼女は今まで恋人がいたし、俺とはキスをしてこなかったのは当たり前だけど。
抱きしめることは許してくれても、キスはどうしても拒否されていた。

深いキスはせずに、唇を合わせて角度を変えるだけのキスをしてすぐに離れる。
特に抵抗もしてこなかったので、もう一度口付けを落とそうとすると、Aが少し強い力で肩を押してきた。

「まって、まってまって」

『なんやねん』

「これ以上はだめ、待って」

そう言って顔を逸らす彼女に眉を寄せた。

こちとら何年も待っていたというのに、ここで我慢しろなんて無理な話だ。
そろそろ"慰めてくれる男友達"は終わりにしたい。

『待ってって顔してへんけど』

Aは動揺しながらも、どこか期待をしているような顔をした。
瞳が潤んでいるのなんて、どう考えても「どうぞキスしてください」と言っているようにしか見えないのだが。

『ええやんな、キスしても』

「な、なんでそうなるの、」

『ずっと我慢してたんやし』

「し、しらない、しらないそんなの」

Aは首を振って小さい涙の粒を目の端に浮かべた。