【東京喰種】僕の声を聞いて【金木研】

129*.苦味 ページ38

「……?カネキく……?」


何が起こったか分からないという顔で僕を見つめるAさん。


よだれを口の端から垂らし、だらしなく口を開いたままだ。少し隙間から見える小さな舌が唾液でテカテカして、僕はもう一度どうにかしてやりたい衝動に駆られるが、理性でグッと抑える。


貴「なん、で……やめちゃうの……?」


さっきまで抵抗していたとは思えない程従順になった彼女に、もう煽らないでくれ、と心の中で叫びながら僕はゆっくり口を開いた。


カ「ごめ……ここお店だし、優しくできる余裕、ないッ……」


しかも相手は素面じゃない。酔った相手に手を出すのは卑怯だ。


……ここまでしておいて、白々しいけど。


貴「うぅ……こんな、中途半端に、やだぁッ……」


僕が焚き付けてしまった熱のやり場がなくて、彼女は身悶える。


カ「本当そうだよね、ごめん、ごめん……でもッ……大切に、したいから……」


ヒヨった訳じゃない。叶う事なら、今すぐめちゃくちゃにしてやりたい。


何も考えられなくなる位ぐちゃぐちゃにして、僕しか見えなくなるまで抱き潰したい。


でも、それじゃAさんを傷つけてしまう。


カ「情けないよね本当……と、とりあえず、降りてもらってもいいですか……?少しでも触ったらぜ、絶対襲っちゃうんで……」


弱々しい声で僕がそう言うと、Aさんは何か言いたげではあったが、素直に聞き入れてくれるみたいだった。僕の上から退こうと動いたその時、


貴「あッ♡」


カ「!?!?!?」


貴「ごめ……ちか、らぁ……♡入んなくて……カネキくん、のが……んッ♡当たってぇッ……んあ♡」


カ「ごごご、ごめんなさい!!!!」


凄まじい速さでAさんを持ち上げ、ストンと座らせると、僕はすぐさまソファーの端の端に退避した。


貴「カネ……「ごめん本当にやばいからッちょっとそっとしておいて下さい!!」


うわあああ死にたい。


男として情けない挙句、更にこんな醜態晒してしまうなんて……!!


Aさんにあんな事しておきながら中断して、恥をかかせてしまうなんてぇ……!!!


カ「最低だ、僕……」


今にも泣きそうな声で呟く僕を見兼ねて、Aさんはなるべく離れてくれたようだ。


カ「……お、落ち着くまで暫くこうさせて……本当ごめんなさい……」


貴「ん、わか、った……」


まだ少し熱を帯びた彼女の声。


そんな声が時折漏れる中、僕は蹲り、耳も目も塞いで無心でいようと必死に努めていました。

作者雑談の巻→←128*.大人

→ 目次へ｜作品を作る｜感想を書く
他の作品を探す