【男主】伝説のボカロPは歌い手に愛され執着されています【歌い手】

10話 ページ12

舞台の裏にいても伝わって来る会場の熱気。
初音ミク10thアニバーサリーライブは熱い盛り上がりを見せていた。



出番まではまだしばらく時間がある。

緊張をほぐすため舞台裏を見渡すと、なぜかスタッフが慌ただしく動き回っていた。


何かアクシデントでもあったのだろうか。
心配になって声をかけた。


「どうしたんですか？」

「あっ歌詞太郎さん！実は...」






「え？」


急いでスマホに手を伸ばしニコニコ動画を開く。


検索せずとも急上昇ランキング1位に見知った名前を見つける。

繊細なタッチで描かれた初音ミクの絵。引き込まれるイントロ。胸を焦がすような歌詞。


誰が言わなくとも分かる。
これはAの曲だ。



儚げで触れてしまえば壊れてしまいそうな程に緻密に作り上げられた幻想的な曲。

誰もが見逃してしまうような小さな、けれど大切な愛おしい感情をすくい上げるみたいに優しい曲。

力強く己の内側を吐き出すみたいに擦り切れるまで叫びたくなるような激しい曲。




これまで様々なジャンルの曲を発表していたけれど、

Aの曲はどれも美しかった。



そして今回の曲も例外なはずもなく、

愛おしさと懐かしさで涙が零れる。
俺はこの音楽を心から愛していた。



懐かしい、よくAの家で一緒に曲を作ったりした。

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俺たちはよくAの家で一緒に音楽活動をした。

ミクの代わりに俺が歌詞を口ずさんだり、Aに作曲のアドバイスをもらったり楽しい時間を共に過ごした。



『ダメだ。こんなんじゃ全然ダメ。
これはボツ』

その時のAは、珍しく難航しながら曲を作っていた。


ぽいっと机の上に投げ出された楽譜を拾い上げ読むが、十分すごい曲だと思う。


「こんな素敵なのに捨てちゃうなんて勿体無い。
ねえ、これ俺に頂戴よ。
俺とAのコラボって事にして！」


『だぁーめ。
俺は俺の納得いくものしか世に出したくないの。』



優しく諭すようにそう語ったAの横顔は珍しく真剣で、見惚れるぐらい綺麗だった。

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思い出になってしまっていた記憶が鮮やかに蘇る。


曲作りに対してAは誰よりもストイックだった。
美しく洗練された曲。

あぁ、早くこの曲を届けたい！

彼の愛する初音ミクのために、Aの復帰を心待ちにすりファンのみんなのために！


逸る気持ちを抑えきれず俺は傍に置いてあったスマホを掴む。



「もしもしA！お願いがあるんだけど...

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