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「いやね、これなんですけどね」
ごくり、唾を飲んだ私の前に、山田さんはある物を取り出して見せてきた
それは、少し前、受け付けにて見かけた帳簿
パーティーの出席者全員が、参加した印に自らの名前を記入するための一冊だ
「これを見るに、お二人は違う姓をお持ちのようですから気になって」
最近流行っている夫婦別姓でしょうか、なんて
中也はナカハラだし、私だってナカハラで、同じ苗字なのが私達の取り柄な筈であるからして
山田さんの云うようなことは有り得ないと、思われるのが、私の見解、なんだけど
「手前、何やらかした」
「え、何もしてない」
と思うんだけど
ああ、中也もとっても怪訝そうだ
嫌な焦りを胸に、とりあえず、山田さんの差し出す帳簿を見てみると
『中原 中也』
『仲原 A』
そこに在ったのは、そんな二つの署名だった
「手っ前ふざけんな、 " ナカハラ " くらいちゃんと書けねえのか」
「ま、待ってよ、私のこれだってちゃんと " ナカハラ " だし」
先に口を開いたのは中也、それはそれは低くて威圧的なお声で、怒っているのがよく判った
戦きながらも、小さく云い返してみれば
「あ"? もう一度云ってみろよ」
「ごごご、ごめんて…!」
だってこんなの思ってもみないじゃん
中也が中原ってことは知ってたけど
名前書けって云われたら、この手が勝手に、書き慣れた方の仲原を書いちゃったんだもん
ナカハラって響きが同じことに安心しきって、そこに何の注意も払わなかったのが痛恨のミスだった
「お二人が恋仲なら話は別です、奪い合いなんて、恋愛じゃあよくあることでしょう?」
改めまして、本名を仲原Aと申します私
ただ今絶賛大大大ピンチ
いやまあ自業自得なんだけど
「大体、夫婦なんて突拍子もない嘘、私が本当に信じたとでも思われましたか」
いや確かに、思ってはなかったけども
と、その時ふと、辺りの空気が凍てついた
中也の醸し出す険悪な雰囲気は然ることながら、今度こそ本性を押し出した山田さんの笑顔は、さっきまでが嘘のように悪役らしく歪んでいる
いや悪役と云うならば、私たちだってそうな筈なのだけど、なんて云って笑っている場合ではない
「そろそろマフィアに噛み付かれるだろうと思っていたところなんですよ」
山田さんはどこの誰にでもなく、その場で「攻撃を開始しろ」と短く囁いた
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ライム - めっちゃ最高でした!!中也かっこよすぎてつらいです!こんな最高の作品を生み出してくださってありがとうございます!!!! (2022年12月26日 17時) (レス) @page43 id: e7904a37c4 (このIDを非表示/違反報告)
なかはらあお(プロフ) - はじめまして、作品見させていただきました。お話の構成も内容もとても素晴らしく感動しかありません、どんぐり様のこれからのご活躍心より期待しております。長文失礼致しました。 (2018年4月22日 10時) (レス) id: a71351843d (このIDを非表示/違反報告)
藍音 - 凄く面白かったです!私の名字もナカハラがよかった... (2018年2月7日 0時) (レス) id: a82b5889f9 (このIDを非表示/違反報告)
碧 - 完結おめでとうございます!!きゅんきゅんしました…! (2018年2月1日 22時) (レス) id: c5a450a737 (このIDを非表示/違反報告)
shinox2(プロフ) - こんな時間に一気に読んでしまいました〜。眠たいのにドキドキが止まらなくて寝付けそうにありません!!(>_<) (2018年2月1日 2時) (レス) id: c23d485c4b (このIDを非表示/違反報告)
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