冒頭 今日のせんぱい日記 ページ44
【某月某日 今日も先輩は麗しい。異能の特性上、猛暑でも外套を羽織らなければいけない先輩に、タオルで包んだ保冷剤を差し入れると礼を言って使ってくださった。心地よさそうに息を吐く姿はさながら、】
「……樋口? 何を書いて、」
「日記です!」
「何故僕を見ながら記す?」
「先輩は私の生そのものなので……」
樋口は太陽が東から西に登るように当たり前の顔をして言った。芥川は静かに首を傾げ、何の所以があって自分が樋口の生そのものに成り得るのか考えたが判らなかった。
□□□
「何か手近な生物の記録でも付けてみてはどうだ」
「……アヤが言ってたな。観察日記ってやつか」
人気のない路地裏にて、子供は芥川に手渡された一冊のスケッチブックと鉛筆をしげしげと眺め、最近出来た友人が学校の宿題とやらが面倒臭いと零していた事を思い出した。
「うん、楽しそうだ。ありがとう」
子供を見下ろす芥川の眼差しは柔らかく、マフィアから探偵社への情報の受け渡し人に芥川を指名した太宰は、此処に子供を連れてきて良かったと微かに笑った。
芥川は太宰の生温い視線に気付くと、煩わしそうに顔を顰めた。
「標的は複数の住処を転々としているようですが……幾つかは既に目星が付いています。此方の構成員が片付けるのも時間の問題かと」
「君達は過激だから駄目。夜道で玩具を振り回した程度で、軍警よりも恐ろしいマフィアに捕まってしまうのも哀れだ」
肩を竦めた太宰は芥川から茶封筒を受け取り、嬉しそうに白紙の頁をパラパラと捲っている子供に声をかけた。
「目当ての物は貰ったし、私達は行こうか。あぁ、Aちゃんはそのまま遊びに行っても良いけど」
「迷惑噴射機が真っ直ぐ社に戻るように見張れと言われた」
「あ、判った。ソレ言ったの国木田君だろう」
子供に外套の裾を握りしめられたまま、太宰は芥川の肩を軽く叩き、体を寄せて耳元で囁いた。
太宰は虚をつかれたように立ち尽くす芥川に笑みを浮かべ、その場を後にする。
遠くなる子供と太宰の会話を聞きながら、芥川は懐に紙切れが入っている事に気付いて取り出した。太宰が入れた物と考えて間違いはないだろう。
──この子を存るべき場所にかえす方法を考えよう。
太宰が先程囁いた言葉。彼は子供が本来此処に居る存在ではないと知っていた。何時から気付いていたのか、何処まで理解しているのか、芥川には見当もつかない。
紙には『決して激昂するな』とだけ書かれていた。
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ロト - こめ(元団子)さん» お久しぶりです!最近わりと多忙でした…少し時間が空いてきたので見てみようと思えば結構更新されてて嬉しかったです!癒されました〜! (2019年8月25日 23時) (レス) id: 84710b8cd8 (このIDを非表示/違反報告)
こめ(元団子)(プロフ) - ロトさん» ロトさん! お久しぶりですね! そうです娘主は奔放な子供なので自由に遊び回っては国木田さんに叱られ 最終的には追いかけ回されますw (2019年8月25日 22時) (レス) id: a3e8a2be57 (このIDを非表示/違反報告)
ロト - 近所迷惑(社員寮)……つまり、国木田さんの胃痛が増すんですね分かります。 (2019年8月25日 1時) (レス) id: 84710b8cd8 (このIDを非表示/違反報告)
こめ(元団子)(プロフ) - 来霧さん» やったー!ありがとうございます これからもお付き合いください! (2019年8月19日 2時) (レス) id: a3e8a2be57 (このIDを非表示/違反報告)
来霧(プロフ) - 続きが!きになりすぎます!!応援していますー!頑張ってください! (2019年8月17日 0時) (レス) id: cc1c1fbc8a (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:こめ | 作成日時:2019年6月22日 21時