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子供は目をまるく見開き、新種の生き物でも発見したように勢い良く芥川を振り向いた。
「黄色いものに液体がかけられている。なあ芥川さん、何だこれ」
「判らぬ」
「…オムライス」銀はそっと言い添えた。まさか兄までケチャップで炒めた米を焼いた卵で包んだ料理の名称を知らないとは思わなかった。
「オムライス専門店よって、私最初に言ったじゃない」
「……?」
まったく聞いていなかったらしい。きちんと耳を傾けているように見えて、その実何も聞いていない兄の癖は今に始まった事ではないので、銀は肩を軽く竦めるに留めた。
「さっきの話によると、金を持っていない私はこれを食べられない」
「僕が払う故、これはお前の物だ。好きに食え」
「こんな親切があっていいのだろうか」
子供は手を合わせ、ぱくぱくと軽快に食べ進め始めた。それを眺めつつ、銀が訊ねる。
「美味しい?」
子供は銀を見て大きく頷いた。あ、と銀は思った。同じだ。兄も美味しいと感じた時や好物を食べた時は、無言だが食べる速度や一口が大きくなる。
銀はちらりと芥川を見た。彼自身は知る由もない癖だ。
「矢っ張り妹とか……?」
妹ではなく娘だがな、と芥川は思った。自分以外は知らないし、言っても信じる者は居ないだろう。
□□□
タピオカミルクティーのストローを口に咥えたまま、鏡花は慣れた動作で母の形見の携帯を片手で開いた。
「あの子に取り付けた発信機は正常に作動している。遠くには行っていない」
「そんな物があるならもう少し早く言ってほしかったですわ……私達結構探し回ったのですけど……」
「真逆逃げられるとはねェ。遊び過ぎたよ」
与謝野とナオミの手には可愛らしいデザインの紙袋が抱えられている。中には三人が金を出し合い購入した衣類が包装されていた。肝心の子供が服の吟味の途中で耐えかねて逃げ出してしまったので、現在はその捜索に追われている処だ。
「迷子センターで呼び出して貰ったら来るんじゃないかい?」
「無理。他人の声が自分の名を読み上げる事に警戒してまず来な……」
鏡花は言葉を切り、携帯の画面をじっと見つめた。
「鏡花ちゃん、どうされましたの?」ナオミが首を傾げる。鏡花はナオミをちら、と見て、また液晶に目を落とした。
「来る。でもAじゃない」
「──捜し物はこれか?」
底など無い真っ暗闇が、背後からぐるりと鏡花を見下ろす。鏡花はほぼ反射的に帯に隠し持った刀に手を伸ばした。
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ロト - こめ(元団子)さん» お久しぶりです!最近わりと多忙でした…少し時間が空いてきたので見てみようと思えば結構更新されてて嬉しかったです!癒されました〜! (2019年8月25日 23時) (レス) id: 84710b8cd8 (このIDを非表示/違反報告)
こめ(元団子)(プロフ) - ロトさん» ロトさん! お久しぶりですね! そうです娘主は奔放な子供なので自由に遊び回っては国木田さんに叱られ 最終的には追いかけ回されますw (2019年8月25日 22時) (レス) id: a3e8a2be57 (このIDを非表示/違反報告)
ロト - 近所迷惑(社員寮)……つまり、国木田さんの胃痛が増すんですね分かります。 (2019年8月25日 1時) (レス) id: 84710b8cd8 (このIDを非表示/違反報告)
こめ(元団子)(プロフ) - 来霧さん» やったー!ありがとうございます これからもお付き合いください! (2019年8月19日 2時) (レス) id: a3e8a2be57 (このIDを非表示/違反報告)
来霧(プロフ) - 続きが!きになりすぎます!!応援していますー!頑張ってください! (2019年8月17日 0時) (レス) id: cc1c1fbc8a (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:こめ | 作成日時:2019年6月22日 21時