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Aside
「今日はありがとうございました。本当にご馳走して頂いちゃって。」
何が何だか分からないまま食事を終え、お会計を済ませたあとにそんな会話を交わす。
「いえいえ。黙っててもらうんだからこれくらいはねぇ」
そう穏やかに笑ってみせる彼にやっぱり大人って違うなぁと感心してしまう。
「大丈夫?」
それに気づいたのか半笑いでそう言ってくる彼の言葉に少しばかり気恥しくなってしまった。
「大丈夫デス」
謎に片言になる私が面白いのかなんなのかくつくつと笑みを零す彼は行こうか、と駅に向かって歩き出す。慌ててそれを追いかけると彼の視線が私に向けられる。
「駅まで送らせてくれません?」
「そんな、悪いですよ。1人で帰れるので!」
「ええって遠慮せんでも。それに、こんな可愛い子1人で帰らせるなんて男の名が廃るからね」
「いや全然可愛くなんてないので大丈夫です」
謙遜してみせると彼はジト目で私を見やったあとぐっと顔を近づけてきた。
「そんなこと言うのはこの口か!」
驚き1歩下がった途端彼がそう言い、私の頬をむにっと引っ張る。
「そこ口じゃないです〜!!」
そんな言葉でやっと緊張が和らぎ少し笑いながらそう言うと彼は満足そうに笑みを浮かべて歩き出す。
「狙っちゃう男ならここにいるから気をつけた方がええと思うよ。Aちゃん」
────心臓が変な音を立てた。
なんだいまの。彼は今なんて言った?私を狙うって?もしかして、今日って命日かな。
「Aちゃん?Aちゃーん。────あら、上の空や」
そんな彼の声は聞こえるのに口はパクパクと動くだけで用を成さないし、そこからどうやって帰ってきたかも分からない。
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