遅い。 ページ8
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「そういうわけだから、中也は明後日安部君を連れて足柄に行ってね」
「何処に其処まで行く必要があンだよ」
作戦内容について文句を云ってるわけではない。
ただ山登りをする必要は何処にある。
「そこら辺は気分というか」
「気分で此処から五十キロ近くある場所に行かせるか普通」
「善いじゃあないか、あの子何も考えてなさそうだし」
「それは否定しねェがそういう問題でもねェ」
怒鳴るのも疲れて淡々と返す。
如何やら太宰は一般人が莫迦にしか見えないらしい。
「俺は行くぞ」
「明後日、ちゃんと作戦通りに動いてね。全く難しい作戦じゃないけど、蛞蝓の頭じゃ心配だから」
「五月蠅ェよ手前は!」
最後の最後までムカつく奴だ。
その場に舌打ちを遺して、俺は安部のもとに向かった。
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そうして迎えた二日後。
安部が無事(?)誘拐された後、俺は石川と安部がいるはずのマンション前で待機していた。
ちなみにこのマンション、安部と石川が住んでいるマンションである。
世の中、結構狭いらしい。
しかしかれこれ五時間は待っている。
太宰の奴は俺がついた瞬間にどこかへ行きやがった。
長くても三時間くらいで出てくると思っていた。
石川だって子供相手に本気は出さないだろうし、そもそも安部の異能なら簡単に抜け出せるはずだった。
少なくとも俺はそう思っていた。
だが来ない。
待てども待てどもその気配はない。
苛々して吸っていた煙草を落として踏みつぶした時、漸く太宰が戻ってきた。
「……そろそろかな」
太宰がそう呟いた途端、マンションの部屋の窓が開け放たれ、何かが落ちてきた。
叫び声と共に。
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作者名:のーと。 | 作成日時:2018年10月1日 22時