知っていれば ページ48
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目の前の集団を睨みながら肘を固定していたギプスを外した。
「大分乱暴に叩き折ってしまったから、それは外さない方が善いのではないのか?」
お前が折ったんだからもう少し謝罪の態度を見せろよ、できるわけも無いことを思いながらギプスを投げ捨てる。
すると、ジイド以外の集団が、食堂脇の階段に向かうのが見える。
何をするつもりだ、と止めに入ろうとするが、ジイドに阻まれる。
「貴女の相手は俺だ」
この時にもし、二階の子どもたちの存在を知っていて、ジイドを無視してでも止めていれば、何か変わったかもしれない。
一人の最下級構成員が死ぬことにも、一人のマフィアが人助けをするようなことにもならなかったかもしれない。
けれど、私は知らなかった。
金目の物を探しに行くのだろうかという安直な考えで、敵の長を優先したのだ。
「異能力『他人の顔』:『汚れつちまつた悲しみに』」
少しだけ上限を解放してみようと思った。
芥川さんは太宰幹部に銃を向けられた土壇場で空間断絶を習得したらしい。
それに倣うではないけれど、そうしなければ今度こそ死ぬ、と思った。
ジイドがぴく、と片眉を上げる。
「あの時は全力では無かった、ということか?」
それには答えず、ただ向こうが動くのを待つ。
攻撃は苦手だった。
というか全然練習させてくれない。
中原中也相手に防御から攻撃から満遍なく練習できると思ったら大間違いだからな。
向こうが動いたのは、それから直ぐの事だった。
中也さんよりは攻撃の重みも、スピードも劣る。
でもジイドの方が恐らく場数を踏んでいるうえあの異能もあるので、裏をかかれることが多かった。
その度に、必死になって攻撃を避ける。
右肘を故障しているのに、前より戦えるようになっている。
やはり異能力というのは大きいらしい。
暫くそうして押され気味になっていたところで、視界の端に動く影が見えた。
なんだ、と思って一瞬目をやり、またジイドを見ると其方に銃を向けていて、焦って横に飛び出す。
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作者名:のーと。 | 作成日時:2018年10月1日 22時