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初期装備では死ぬ ページ40

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広津さんの言葉を遮るように響いたのは、先ほど私を送り出した声。

黒服は緊張した面持ちで背筋を伸ばし、広津さんは取り出しかけた煙草を懐に戻した。


一気に集まった視線にも構わず、奴こと太宰幹部は携帯電子盤と格闘していた。

「ちょっと待ってね今、この難関面をクリアするところだから……あ、拙い、抜かれた!喰らえ爆撃!げえ、避けられた!」

「太宰殿、ご足労恐縮です。武器庫警備の者が撃たれました」

冷静に声をかけた広津さんに、太宰幹部が電子盤に目を向けたまま答える。

「マフィアの武器庫を狙うなんて命知らずは久方ぶりだね!」

「各、9ミリを10から20発受け即死。その後、保管中の銃火器が盗まれました」

「じゃ見てみるよ。安部君これお願い」

「えっ」


何の脈絡もなく急に携帯電子盤を投げて寄越されたものだから、何度か手の上で跳ねさせてしまった。

落としたら殺されそうだから意地でも落とさなかっただけマシだけど。


そんな私の焦りも露知らず、太宰幹部は勝手に死体の分析を始めた。

広津さんや黒服が哀れみの目を向けてくるが当然助けは来ない。

仕方なく太宰幹部が遣っていた途中から操作した。


弟が持っている電子盤(ゲェム)で、私も知っていたので見た瞬間に思った。

この装備でこの局面クリアできるわけなくね?

全部初期装備じゃん。

なんなの舐めてんの?


でも文句を言ってもゲームオーバーになっても死ぬかなと思ったので今までにないほど真剣に取り組んだ。

幸い二回ほどゴールできているので大きなミスをしなければクリアできるかもしれない。

弟には全部ボロ負けだけど。


暫くして広津さんと太宰幹部の話が終わったようだ。

丁度私もクリアしたところだった。


疲れ切って太宰幹部に電子盤を返すと、あ、そういえばと忘れていたかのように声を上げていた。

そろそろ人として心配になってくる。

せっかく人が生死をかけてクリアしたってのに。


「この面、幾らやっても突破できなかったのだよ。しかも一位じゃないか」

「……偶に遣っていたもので」


差し障りないように受け答えする。

太宰幹部は此方に目を向けて、云った。


「学校に向かっていたのだろう。行っていいよ」

「ありがとうございます。失礼します」


太宰さんと、それから広津さんに一礼して、逃げるようにその場を去った。







首領に匹敵する、あの目で見られたら、ただ震えあがるしかなかった。

何もないって幸せ→←急がば回れ



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作者名:のーと。 | 作成日時:2018年10月1日 22時

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