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キルケゴールと踊る《壱》 ページ2

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周囲に立ち並ぶ建物はない。


眼下では、道路を走る車のヘッドライトの光が鮮やかな川となって、街から街へと流れていく。


おおよそ、13階を超えた。屋上はまだ遠い。


中也は片手で端末を押さえつけながら、マフィアが牛耳(ぎゅうじ)る病棟の壁を駆け上がっていた。


忙しなく浅い呼吸を繰り返しながら、何度も端末で通話を試みる。


「何、してやがんだ、クソ太宰」


今は任務中の筈だろ。こんな時に失踪癖を発揮するな。それとも、この状況は。


手前でも何も手足が出ないのか。太宰。


想像が鮮やかな形になった瞬間、心拍がにわかに上昇した。


しかし焦りとは裏腹に、一定のリズムでコール音は続く。


コール音。コール音。


『おかけになった番号は―――』


「このッ、青鯖ァ…!!!!」


『現在、使われておりません。』


喉を刃のような声が貫いた。中也は端末を乱暴にふところへぶち込む。


深夜のビル群を足元にすえ、身軽に駆け上がっていく姿は 地上から望めないほどになっていた。


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今の中也は、己を止めるものは、何であっても許さない。


昇降機(エレベーター)も受付の警備も、部下の制止の声も。中也には自由にならない手足と同じだ。


『足立さんの姿が見当たらないんです、どこにも』


数分前に聞いた部下の叫ぶような声が、駆け上がる脚を加速させる。


『管全てを外してどこかへ! 外へ出た姿も見たものはいません…!』


管で命を繋いでる奴が。手前で命綱ブチ切りやがった。


―――中也の弟子・足立一之は死に至る病を抱えていた。それは体をむしばむ病ではなく、心に根付いたものだった。


慢性孤独病。中也がそう呼ぶのは、足立の魂に刻まれた自害癖のことだった。


まるで生きていることを罪であるかのように思い込んでしまう病。特効薬も何もない、嵐のような発作の激情を抑え込むしかない病。


絶望という名の死に至る病は、既に全身を侵している。


『意識が戻って直ぐのことだったんです、あんな身体で何処へ、』


そこから先を聞いていられる忍耐は、中也に残っていなかった。


発作だと直感した。あの発作(自害癖)が出た。


衝動に身をまかせ、筋肉に力をこめれば、屋上が少しずつ見えてくる。


中也の目が屋上の人影を捉えた瞬間、


「逃げるな——足立!!」


殺気をにじませた叫びが、10月の空気を濁らせた。

キルケゴールと踊る《弐》→←※



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アバンギャルド・マボ(プロフ) - PVの方も見てくださってありがとうございます!!!いつか未来分岐のあるノベルゲーム版を書いていきたいと思っておりますので、その時は是非プレイしてやってください!! 遂行する前から読んでくださってありがとうございます…コメントめちゃくちゃ嬉しかったです… (2019年8月29日 13時) (レス) id: f747016130 (このIDを非表示/違反報告)
アバンギャルド・マボ(プロフ) - 読み込んでくださってありがとうございます(;_;) 台詞に言及してくださるのが嬉しすぎて…。 細かいことは気にしないを地で行く姿が伝わっていることが大変嬉しい!!ずるいぞお前って言いたくなるタイミングで男前を発揮する芥川が表現できててよかった!!! (2019年8月29日 13時) (レス) id: f747016130 (このIDを非表示/違反報告)
よしな。(プロフ) - あと、PV観ました。何あれすっごいですね!!音楽のセンスと文章ぴったりです!老爺ってまさか……子どもたちってまさか……と思いながら観てました笑。推敲する前から足立シリーズ好きなんですが、もっと好きになりました。 (2019年8月28日 12時) (レス) id: 97ebc294fb (このIDを非表示/違反報告)
よしな。(プロフ) - 不断の糸の芥川が好きすぎる。「どんな人生を歩んできたかなんて過去でしかない」って言えるのは君だけだよ……「文章だけで何を理解できる」か。これから大切なのは今であり未来だと言われてるみたいで。だからこのコンビは好きなんだ。 (2019年8月28日 12時) (レス) id: 97ebc294fb (このIDを非表示/違反報告)
アバンギャルド・マボ(プロフ) - わあああいつも有難う御座います!!この作品は初めて自分がシリアスに着手したやつなので、一番好きだといっていただける方がいるのが最高にうれしいです・・・これからもお付き合いください!!! (2019年7月28日 22時) (レス) id: 940de82038 (このIDを非表示/違反報告)

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作者名:アバンギャルド・マボ | 作成日時:2016年10月22日 0時

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