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Lost Eden 2 ページ34

「君が、私を救済する天使か――……」

赤い霧を蒼い光が包み、全てを浄化していく。東の空が白み、長い夜が終え朝日が登る。

――これですべて、終わったんだ。
敦は鏡花と共に永遠とも思える長い夜の闇の中で荒れた街を見渡した。後ろから近付いてくる足音に振り返ると、砂色の長外套を纏った太宰がいた。
外套の色が織田と似ている事に不意に気付く。そう云えばふたりは旧友だったっけ、と思い出した。
「敦君」
太宰は敦の前まで歩き、足を止める。
「今回、私はね――」
「太宰さんはこの街を守ろうとしたんですよね」
太宰はその言葉に瞬いてから、おどけたように云う。
「私が、そんなことをするいい人間に見える?」
敦はきょとんと目を瞬かせる。
「見えますけど……」
その様子に、太宰は墓地での会話を想起し、「まぁいい」と柔らかな苦笑を漏らした。
「……彼が最期に、退屈と孤独を埋められたならいいが」
太宰が水平線の彼方に視線を向ける中、鏡花は敦を見上げる。
「あなたはこれで本当に良かったの?」
「……一度は殺した記憶を忘れたみたいに、もう一度あの過去に蓋をすることは、できるんじゃないかと思う。でも、これでいいんだ」
瞼の裏に、自分の背を押した人の姿が映る。
ひょっとして、院長先生は僕を守ってくれていたのでは無いか。
そんな思いが芽生え始めていた。
僕が澁澤をあの時殺したことを隠匿することは、僕が虎であることを隠匿することは決して容易ではなかった筈だ。目を背けたかった過去のひとつに、やっと向き合える気がした。
「少なくとも今は皆と街を守れたことを誇りに思うし、そうやって鏡花ちゃんや皆の隣で生きていく方が……幾分か素敵だと思うから」
傷だって、自分が自分であるという証明だ。

敦は戦場にまで運んで来た穴だらけの黒外套を拾い上げた。
「Aさんに返さないと」
敦の呟く声が太宰の耳に入る。
太宰は周囲を見渡す。
「Aは?」
「今は探偵社に居ると思います。相当傷付いていましたから。……太宰さん?」
敦の言葉を最後まで聞いたか否か、太宰は駆け出した。最早背の傷の痛みは感じなかった。

彼女の自己犠牲癖を忘れていた訳では無い。だが戦いを最後まで見届けられない程にまでなっていると云うことは、疾く与謝野に診せねばならなかったことに他ならない。
荒れ果てた社屋に転がり込む。
「A!」
半ば泣き叫ぶかのように名前を呼ぶ。
返ってきたのは、無機質な電子音だった。

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設定タグ:文豪ストレイドッグス , 転生 , 太宰治   
作品ジャンル:アニメ
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夢秋(プロフ) - 蒼さん» ありがとうございます! 一歩間違えたら夢主ちゃん太宰さんに閉じ込められるくらい無茶してます。早く起きないかなー(どの口が) (6月21日 3時) (レス) id: 9185832e78 (このIDを非表示/違反報告)
(プロフ) - 主人公ちゃんんんん目覚めないと太宰さん泣いちゃうよ!?!?ついでに私も泣くよ!?(?)BEASTめっちゃ好きだけど!!作者様へ神作品です最高ですありがとうございます (6月13日 12時) (レス) @page50 id: 699f0917a9 (このIDを非表示/違反報告)
夢秋(プロフ) - いけるしかばねさん» ありがとうございます! これからしばらくリメイクに入るので実質回想シーン→BEASTで夢主なかなか起きないことになります( ͡ ͜ ͡ ) (2023年2月3日 14時) (レス) id: 28dc9b7eb5 (このIDを非表示/違反報告)
いけるしかばね - ぬあぁぁああ起きろよ主人公!!いやbeastもいいけど嬉しいですけど!!! 続き楽しみに待ってます頑張ってください! (2023年1月31日 16時) (レス) @page50 id: c9b27d8eb7 (このIDを非表示/違反報告)
夢秋(プロフ) - 蒼月さん» ありがとうございます!! イベントとか終わったらぼちぼちリメイクしながら再開します!! (2023年1月24日 2時) (レス) id: 9185832e78 (このIDを非表示/違反報告)

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作者名:夢野秋 | 作成日時:2021年11月1日 2時

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