第8話 ページ9
・
部屋の前に立つと、丁度扉が開いた。
「あ、お疲れ様です中原さん」
「手前……なんで俺の部屋の前に立ってンだ」
「帰還の報告をしに来ました。中原さんは何処かへお出掛けですか? 書類でしたら私が代わりに」
参りますが、と続けたところでその手に何もないことに気付く。
「では、隣におりますので御用の際に」
軽く頭を下げて、身を翻す。
「おい待て」
「はい」
振り返ると、揺れた髪から焦げ臭い匂いがした。
芥川くんが守ってくれたお陰で傷はないが、爆風の影響はもろに受けている。
「怪我はねェのか」
「芥川くんに守ってもらいましたから」
血相を変えた樋口ちゃんと塩対応の芥川くんのやり取りを思い出して、口元に笑みが浮かぶ。
少しだけ気が抜けて体の疲れを意識した。
この久しい倦怠感が心地好い。
「…茶を淹れろ」
中原さんはそう言うとバタンと扉を閉めてしまった。
その音に目をぱちりと瞬かせる。
久々の高揚感につい気が緩んでしまった。
「いかんな。戻ってこないと」
ナイフの手入れは後でしよう。
服も取り敢えず新しいものに着替えた方が良いだろう。
「…中原さん、何処に行こうとしてたんだ」
シルバートレーを持ち、再び中原さんの扉前。
ノックをしようと右手を上げたところで、はたと気付く。
まぁ良いか。
「
「悪いな、疲れてンだろ」
「いえ。こうしていた方が落ち着きますから」
長椅子にどっかりと腰を下ろしている彼。
机には書類が山積みになっている。
「彼方の書類は」
「今からだ。手前はもう帰って良い」
「私が不在の間にかなり増えましたね」
昼前に出て、日付が変わった頃に帰ってきた。
森さんに報告をした後、此方に来たのだから中原さんなら既に終わらせているかと思っていた。
「差し支えないものであれば私が」
「帰れっつってンだろ」
「中原さんが電気を消すまで、私も隣で待機していますので」
「……」
茶を注ぐ手元に視線を感じる。
音を立てずにカップを前に置けば、中原さんが口を開いた。
「手前は前にもこうやって茶を淹れてたのか」
「お酒を飲むようになってからは淹れる機会も減りましたがね」
「は?」
別に酒をお茶代わりに飲んでいたわけじゃない。
「そも、淹れる時間があるならキーボードを叩いていましたので」
「酒飲めるのか?」
「飲めますよ」
そんなに珍しいんだろうか。
「私、中原さんと同い年ですし」
127人がお気に入り
この作品を見ている人にオススメ
「文豪ストレイドッグス」関連の作品
感想を書こう!(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
梦夜深伽(プロフ) - 加奈さん» 中也の出番はこれから増やします!! (2020年6月6日 19時) (レス) id: 885dd45dfc (このIDを非表示/違反報告)
加奈 - 中也。 (2020年6月3日 15時) (レス) id: b3d6820988 (このIDを非表示/違反報告)
梦夜深伽(プロフ) - るるさん» ありがとうございます! (2020年6月3日 1時) (レス) id: fef69d0af7 (このIDを非表示/違反報告)
るる(プロフ) - 文章が丁寧で物騒でめちゃくちゃ面白いです...!!更新楽しみにしてます..!!!! (2020年6月1日 15時) (レス) id: 30c2a422ab (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名:梦夜深伽 | 作成日時:2020年5月24日 23時