第7話 ページ8
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「じゃあ芥川くん、お先に」
「直ぐに終わらせます故」
「期待して待ってるよ」
お願いね、と微笑んで見せれば眉間に皺を寄せて彼は咳き込む。
無理をしないでね、とは言わない。
そんなことは口が裂けても言えない。
ただ本心を告げて、視線を前方に、意識を全体に巡らせる。
「……」
今。
音もなく、呼吸も鼓動も止めて。
前に倒した体が重力に従って落ちていく。
落ちていく落ちていく落ちていく落ちて_
「ふ…」
笑ってしまった。
此方を見上げた男と目が合う。
驚愕に目を見開き、その手に握った重火器を掲げ声帯を震わせる隙は与えない。
「かはッ_」
漏れた僅かな吐息は突入の轟音に掻き消される。
騒然となる一角で、指示を仰ぎみた先にあるのは既に事切れた男の姿。
その騒然さが一段増す前に、黒い獣が蹂躙を始めた。
阿鼻叫喚の地獄絵図。
流れ弾がいくつか足元で弾けては火花を散らす。
「…」
考えるのはほんの一瞬。
目を細めて男の骸を探る。
鍵の束から一本だけ拝借し、守るようにしていた扉の鍵穴へ。
「…古典的な方法も」
好きだ。
解錠された扉を開ける事はせず、身を翻して上の階を目指す。
吹き抜けになっているから芥川くんの姿がちらりと見えた。
「早い。私はいらないな」
元は私抜きで遂行される筈だった作戦だ。
当然、私がいなくとも成功する。
寧ろいることで成功率が下がる。
そこに組み込まれた理由。
「そんなこと、詮索せずとも」
分かっている。
敵をなるべく避けて、ただ目標へ向かって走る。
背後から芥川くんの黒獣が暴れ屠る音が近付いてきていた。
「…」
廊下に掲げられていた絵画の数々。
1枚に向かって拳を突き出す。
壁の窪みに、レバーが生えていた。
廊下の先にこれ見よがしにあるレバーはフェイク。
先程解錠したアナログな鍵は扉のわりに重たい音がした。
あれが1つ目、これで2つ目。
「好き、だな」
招くように開いた壁に体を滑り込ませた。
細い一本道を走る。
行き止まりの小部屋に、目当ての物はあった。
「…」
無防備に近づいて、手に取ったその瞬間。
その重みがなくなったことでセンサーが稼働。
爆発の轟音に耳を塞いだ。
「_ありがとう、芥川くん」
黒に飲み込まれて振り返る。
いつもより顔色を悪くした芥川くんが肩で息をしていた。
「貴女は、
「期待して待ってたから」
微笑むと、彼はまた口に手をあて咳き込むのだった。
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梦夜深伽(プロフ) - 加奈さん» 中也の出番はこれから増やします!! (2020年6月6日 19時) (レス) id: 885dd45dfc (このIDを非表示/違反報告)
加奈 - 中也。 (2020年6月3日 15時) (レス) id: b3d6820988 (このIDを非表示/違反報告)
梦夜深伽(プロフ) - るるさん» ありがとうございます! (2020年6月3日 1時) (レス) id: fef69d0af7 (このIDを非表示/違反報告)
るる(プロフ) - 文章が丁寧で物騒でめちゃくちゃ面白いです...!!更新楽しみにしてます..!!!! (2020年6月1日 15時) (レス) id: 30c2a422ab (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:梦夜深伽 | 作成日時:2020年5月24日 23時