第5話 ページ6
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チリンリン、と軽やかに鳴ったベルに手を止めて立ち上がる。
今の時間ならお茶だろう。
手早くシルバートレーに載せて、隣の部屋の扉をノック3回の後に開ける。
「
「疲れた」
「此方の書類の確認とサインのみお願いします。その間にお茶を淹れますので」
仕事を始めて数日が経過していた。
やっていることはさながらお茶汲みである。
料理がてんで駄目なことは早い段階でバレたのだが、お茶だけは一級品だと太鼓判を貰って以来こうして役職はお茶汲みなのだ。
「手前、この後は?」
背後からかけられた、恐らく此方を見もしないで言われた言葉に私も手を止めずに答える。
「書類を各担当部署へ届けた後、黒蜥蜴の皆さんと明後日に控える制圧へ向けた会議を」
「その会議、俺も行く」
「中原さんは待機ですが」
「会議に待機命令は出てねェよ」
「会議に出たら行きたくなっちゃわないんですか」
ほんの少し、茶葉を蒸らす間に視線を流すとぱちりと目があってしまった。
「大体、何で手前が出ることになってやがる」
「単純に戦闘員換算かと。尋問には向きませんから」
嘘が見破れるからって、それが真実とは限らない。
森さんがエリスちゃんを"妻"と言ったように、本人が本当にそうであると信じているのならば、嘘ではなくなるからだ。
つまり、男が洗脳されて女だと思い込んでいるのならば、"私は女である"という言葉は真実になる。
誤情報を真実だと思い込んでいる相手の嘘を見破ったところで、手に入るのは誤情報なのだ。
「銃口も、人体も正直ですから」
狙われる場所が分かっていれば、どうってことない。
嘘がわかる分、正直な銃口というのは好きだった。
「まぁ手前の回避能力は称賛に値するが」
「ありがとうございます。出来上がりましたよ」
お洒落な人は、調度品も素敵な物を選べるらしい。
それらに囲まれて茶を啜る本人まで整っているのだから、言葉にならないほどの美しさがある。
一口含み、満足そうに二口目を飲み始めた上司を横目に私もカップに口をつける。
毒見などはしたことがない。
現状、私には毒を用意する手段がないからだ。
部屋からほとんど出ていないし、動くといってもポート・マフィアの管理するビルの中のみ。
出入りの激しい書類もポート・マフィア内を行ったり来たりしているもので、外と通ずる手段が皆無。
「手前の料理は毒物だったけどな」
「化学反応の神秘です」
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梦夜深伽(プロフ) - 加奈さん» 中也の出番はこれから増やします!! (2020年6月6日 19時) (レス) id: 885dd45dfc (このIDを非表示/違反報告)
加奈 - 中也。 (2020年6月3日 15時) (レス) id: b3d6820988 (このIDを非表示/違反報告)
梦夜深伽(プロフ) - るるさん» ありがとうございます! (2020年6月3日 1時) (レス) id: fef69d0af7 (このIDを非表示/違反報告)
るる(プロフ) - 文章が丁寧で物騒でめちゃくちゃ面白いです...!!更新楽しみにしてます..!!!! (2020年6月1日 15時) (レス) id: 30c2a422ab (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:梦夜深伽 | 作成日時:2020年5月24日 23時