第35話 ページ36
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「! _む、んんッ」
「……」
視界いっぱいに広がっているのは、太宰さんの中性的な美貌。
ばちりと目が合って、にっこりとそれはもう満足そうに笑顔になる。
「叫ばないでね? もう夜だから」
どうやら寝ている私の上に乗っているらしい。
矢張り細くとも男なのだなと、力の強さに痛感させられる。
「はっ、…はぁ、……殺す気ですか」
「驚愕した? だって全然起きないんだもん」
「だもん、って可愛くないんで止めて貰っていいですか…」
寝ている人の口と鼻を塞いでおいて、目覚めなかったらどうしてくれるつもりだったのだ。
起こしたことを感謝してほしいと言わんばかりの笑顔が眩しい。
「……」
「……」
退く気の無い太宰さんはじっと私を観察している。
美しい人の其の表情は落ち着かない。
視界から追い出したくて片腕で目を覆う。
思い出してしまった。
とうに此の世界の人間だったことも、私の異能力も。
此の世界に来たのは10年前だ。
欧州で暮らし、日本に来たのが此れで二回目。
記憶を落としていた理由も今なら分かる。
「…太宰さんは、いつから気づいていたんですか」
「一目見たときに懐かしいと思った。調べようとしたら、Aから来てくれた」
嬉しさが滲むような声に戸惑う。
「乱歩さんの動揺と二人の会話、確信したのは左手の跡だ」
左手を取られた。
違和を感じて見てみると、指貫の手袋が外されている。
「さっき異能力が使われて治ったよ。目覚めると思って待っていたんだ」
そして太宰さんの長い指先が撫でるのは、白い指輪の跡。
「やっと会えたね、A」
恍惚と、妖しく美しく。
蠱惑的な瞳に目が離せなくなる。
「……太宰さん」
長い指が私の頬をするりと撫でて顔が近づく。
開いた胸元に覗く白い包帯と_
「__若しかして、あの時の男の子?」
笑顔が固まった。
「…思い出したんじゃないの?」
「思い出しましたよ。私の異能力は信じる人の側でしか発動出来ないから、生還するために指輪を預けたんです」
「……」
「まさかここまで成長しているとは…」
確かに面影はある。
特にあの瞳は、彼のものだ。
加えてループタイの内側、服のなかに隠された首飾り。
「指輪、持っていてくれたんですね」
彼にとっては何の価値もない、只の指輪。
「信じてくれてたんですか」
嘘つきの私を。
「……嬉しい」
「!」
ニヤついたのが気色悪かったらしく、太宰さんは顔を逸らしてしまった。
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梦夜深伽(プロフ) - 加奈さん» 中也の出番はこれから増やします!! (2020年6月6日 19時) (レス) id: 885dd45dfc (このIDを非表示/違反報告)
加奈 - 中也。 (2020年6月3日 15時) (レス) id: b3d6820988 (このIDを非表示/違反報告)
梦夜深伽(プロフ) - るるさん» ありがとうございます! (2020年6月3日 1時) (レス) id: fef69d0af7 (このIDを非表示/違反報告)
るる(プロフ) - 文章が丁寧で物騒でめちゃくちゃ面白いです...!!更新楽しみにしてます..!!!! (2020年6月1日 15時) (レス) id: 30c2a422ab (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:梦夜深伽 | 作成日時:2020年5月24日 23時