第30話 太宰side ページ31
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思い出す、Aと初めて会った日のことを。
記憶は時が経つにつれて薄れていく。
人は忘れていく。
思い出を美しいまま、鮮明に焼き付けたままでいたいから私は自死に忙しんでいるのかもしれない。
そう考えてしまうぐらい、記憶は朧気だった。
忘れないためにあの日の資料は読み込んで暗記してある。
だから思い出すのは、活字の記憶から起こした映像だ。
例によって逆らう組織の殲滅に向かったあの日。
正式にマフィアに加入して暫く経った後だった。
強力な異能力者が相手だからと私が出向く羽目になり、当然のように中也も付いてきた。
大寒波だとかで、気温が平年を大幅に下回る寒い冬のこと。
突入した建物のなかには人、人、人。
白い冷気が可視化できるほどの屋内で、全員が凍っていた。
隣に話し掛けるようにしている者も、武器を構えている者、何処かへ歩き出そうとしている者も。
上へ向かう階段も氷の壁で覆われていた。
あの日敵対したのは氷を操る異能力者。
触れた異能力を無効化する私にすれば何てことはない。
一歩、足を踏み入れた途端に氷が消えていく。
溶ける暇なんて与えず、光の粒子となってその温度も質量も消えていく。
そこで予想外が起きたのだ。
消えたのは一部だった。
すなわち、後は本物の氷だということ。
加えて消えた氷は防衛システムを眠らせていたらしく、銃弾が四方八方から撃ち込まれる。
「__!」
中也が奇声をあげて弾除けになったところで、今度は建物全体が軋む。
どうやら氷は建物を支える柱となっているらしかった。
「じゃあ此処で待ってるから」
そうなれば重力を操る中也の出番だ。
数人の護衛役とともに待機にまわる。
風だけでも凌げるし、潰れるなら其れは其れで良いと一階にいたとき。
突如として、床が崩れた。
落ちる。
慌てた様子で此方に手を伸ばした護衛役が、氷柱を彩る赤い染液になるのが見えた。
自分の吐く息だけが白く、闇を落ちて落ちて。
どぷん、と水に浸かった。
衝撃による痛みより、心臓を貫かれるような全身を刺すような痛みに声にならない声があがる。
真冬、直ぐ上が氷城になっているような場所の水路だ。
地層から涌き出た水で綺麗だったのが救いだろうか。
足も付かず、着込んだ服はふんだんに水を吸い動きを鈍らせる。
「なんで子供がっ」
第一声は其れだった。
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梦夜深伽(プロフ) - 加奈さん» 中也の出番はこれから増やします!! (2020年6月6日 19時) (レス) id: 885dd45dfc (このIDを非表示/違反報告)
加奈 - 中也。 (2020年6月3日 15時) (レス) id: b3d6820988 (このIDを非表示/違反報告)
梦夜深伽(プロフ) - るるさん» ありがとうございます! (2020年6月3日 1時) (レス) id: fef69d0af7 (このIDを非表示/違反報告)
るる(プロフ) - 文章が丁寧で物騒でめちゃくちゃ面白いです...!!更新楽しみにしてます..!!!! (2020年6月1日 15時) (レス) id: 30c2a422ab (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:梦夜深伽 | 作成日時:2020年5月24日 23時