牡丹が落ちる時【mfsk】

牡丹1 ページ2

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カサついた大きな手が私の頬を撫でた
きつい香水の匂いと品の無いアクセサリー



私は動きもせず、騒ぎもせず、ぐるぐると回る感情に蓋を閉めた






｢何か欲しいものは無いのか？
服でも宝飾でもなんだって買ってやろう｣


｢私はただの女中ですよ。そこまでして頂くのは気が引けます｣


｢私が君にあげたいんだよ。君の喜ぶ顔を想像すると食が進むからね｣





──あぁ、口から泥が出ているようだ。


ジャバジャバととめどなく流れ出てくる、真っ黒で汚い言葉たち



でも嘘をついているのは私も同じなのだから、この男と私は同じ穴の狢(むじな)なのだろう






｢この家にたくさん置いてある絵はどこから買われてるんですか？｣



｢おぉ、君は芸術が分かるのか！
あれは友人の伝手でね。良い物を良い値で売ってくれるところがあるんだよ｣



｢それはどこにあるんですか？｣





私が塩らしく聞くと男は私の体を引き寄せてきた
いやらしく腰を触り、私に鼻息を当てる





｢君はさっきから質問ばかりだ
子供のようになんでなんでと……君はもう大人の女性だろ？｣




気持ち悪い……

どいつもこいつも体のことばっかり




男の付けている指輪が私の顎を押し上げた

私は目を薄めて口角を上げる





｢でも私、知りたいんです｣




｢あぁ、教えてあげるさ｣





薄暗い灯りの中、ゆらゆらと私たちの影が繋がって鳥肌と嫌悪感がぐるぐるととぐろを巻いた


笑顔の後ろで歯を食いしばって、怒りで震える手で服にシワを作る



音を立ててはしたなく離れた異物に、私はよりいっそう笑みを深めた



自分の口を拭うわけにもいかず、私に許されるのはただおっとりと手をあてがうまでだ





｢隣町にある会社だ。
突然できたんだが、接客態度も上々なので結構気に入っている
どうだ、今度一緒に行ってみるか？｣




｢えぇ、その時が来たらぜひ｣




自分の手を男の胸に押し当てる
意図も簡単に倒れていく男に私も合わせて体を倒していった


男が下品にも私の襟口を右に引っ張って、私の和装が崩れてしまう

こんなものを見て何が嬉しいのか……鼻の下を伸ばした男の顔は醜くおぞましい





｢始めようか｣



｢いいえ、終わりですよ｣





私は真っ直ぐに一文字(もんじ)を描いた
男の首にぴーっと赤い線が浮かんできて、真っ赤な血が激しく飛び散った



私の髪も服も顔も真っ赤だ……。

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