色褪せない記憶と偽物 六 ページ37
「だ、だざ、太宰幹部……っ!?」
驚愕と恐怖と焦燥が一気に襲ってきて、わたしは死ぬほど慌てているのに、体を動かせなかった。
せっかくあそこで格好つけて泣かないようにしていたのに、よりにもよって本人に。見栄を張って正面から歯向かった太宰幹部、本人に!!
……泣いているのがバレた、なんて。
何たる大恥。穴があったら入りたい。
「ち、ちが、違うんです。これは、怪我が痛くて、自然に涙が」
「怪我がねぇ」
愉快そうに笑うと、太宰幹部はベッドの近くにあった椅子を引いてきてそこに腰掛けた。
ひぃ、と喉の奥から悲鳴が漏れる。折角の見栄が崩れ去った瞬間だった。
太宰幹部は唇を震わせるわたしの手を優しく取ると、包帯が巻かれた掌に、そっと指を滑らせた。
つきり、とささやかな痛みに思わず目を瞑り、「んっ」と小さく声が漏れる。
太宰幹部はわたしを見て更に笑みを深めると、「痛いかい?」と問うた。
「い、いた……痛い、痛いです〜……っ」
「うふふ、Aさんは泣き虫だねぇ」
泣くほどの痛みではない。ただ触れられただけで、少し痛覚が刺激されただけだった。
でも、それはわたしの決壊寸前の涙腺を壊すには十分で、我慢していた涙があの時感じた恐怖とともに、ぼろぼろと零れ落ちた。
太宰幹部は泣いているわたしを優しく抱きしめると、小さな子供をあやすように背中を叩いた。
わたしは年上。年上なんだけど。
「幹部と対峙する恐怖に耐えて、必死に、それでも完璧に抗弁して部下に畏怖の念を抱かせたのに。
その私の前で号泣してちゃ世話ないじゃない」
「だ、誰の、せいで……!」
「そんなに泣かないでくれ給え。……君が悪いのだよ? 芥川君を必死になって守るから、少しやきもちを焼いてしまったんだ。
好きなひとが他の男を守ろうとするなんて、いい気分じゃないだろう?」
……好きなひと、か。
嗚咽を漏らし、太宰幹部にしがみつきながら、わたしは心の中で否定する。
違うのに。わたしはあなたを救えないのに。
「嗚呼……でも、涙で潤んだ目をしながら私を前にして、『背信と見做されますよ?』なんて脅して微笑んだ君は……最高に魅力的だったよ。
本気でゾクゾクした。ふふ、本当は怖くて仕方なくて、泣くのを我慢できなかった君を、ここで抱きしめてる状況も……凄く興奮する」
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やっさん - さにー☆彡さん» 後書きの羊の宰相、リンク、スタートになってますけど笑。徳田さんの、転生前の本名は、謎のままでしたか... (2019年8月10日 9時) (レス) id: fd24bdc7a6 (このIDを非表示/違反報告)
さにー☆彡(プロフ) - くどはるさん» ありがとうございます……!!そう言って頂けてとても光栄です!太宰さんは妖艶でないとだめですよね笑ちゃんと書けていたでしょうか笑…続きではありませんが、後書きにある作品がこれにリンクしたものとなっています。ご興味あればぜひどうぞ! (2019年7月23日 7時) (レス) id: 6034bec340 (このIDを非表示/違反報告)
くどはる - こんなに読み込んだ作品は初めてです…作者様の言葉の卓越さや文章の造りに心底惹かれました!!一つの小説として、何度でも読みたくなってしまいます!太宰さん最高に妖艶です。続きを期待してしまいますが、また新しい小説楽しみに待ってます!素敵なお噺ありがとう! (2019年7月23日 1時) (レス) id: 356a43a05c (このIDを非表示/違反報告)
さにー☆彡(プロフ) - 涼風梓さん» なかなかに長い話でしたが最後までお付き合いくださってありがとうございます!!楽しんでいただけてよかったです! (2019年6月6日 15時) (レス) id: 6034bec340 (このIDを非表示/違反報告)
涼風梓(プロフ) - 初コメ失礼します!とても面白かったです!面白くて一気見しちゃいましたw今更かも知れませんが完結おめでとうございます! (2019年6月6日 15時) (レス) id: b666f93d0b (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:さにー☆彡 | 作者ホームページ:http://uranai.nosv.org/u.php/hovel/AKOwww1
作成日時:2018年3月24日 21時