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出鼻をくじかれる、と言うのはまさにこの事だろう。

「…俺、YOUさんの事が好きっす」

同僚の彼からの一緒に帰ろう、と言う誘いを断りきれずに帰り道を歩いていると、突然腕を掴まれて。

「……俺と、ゆっくりでいいんで!」

彼の頬が赤くなっていく。ゆっくりでいい、と言うのは会社で色々とあったわたしを気遣ってくれているんだろう。

「つ、付き合ってくれませんか」

真っ直ぐに顔を上げた目は、真摯で、絶対にわたしを蔑ろになんてしないような、そんな誠意に溢れていた。

…昨日わたしに起きたそんな事を思い返しながら、一人の帰り道で溜息を吐いた。

はあっと吐いた白い溜息はやたらと無意味で、こんなわたしと重なった。

……何なんだろうな。

酷く生意気で贅沢なのは分かっていても、わたしは人に好きだと言われる度に怖くなってしまう。

そして、自信が何故か持てなくなってしまう。その人の思い描くわたしに、なりたいと。何処が好きなの、いつ好きになったの、とか。

誰も得をしない様な事を考えてしまう。

調子に乗ってる、と言われたくない。

何であんな奴なの?とか。言われなくても。別にそんなに可愛く無いよね、だとか。

「…分かってるよ」

女子に呼び出しをされたあの時の事は、本当に思い出したくない。

性格良いんじゃなくて、良く見せてるだけなんだって!

自分がどうしたらいいのか、分からない。だけど叶うならば、誰にも不幸になって欲しくない。

…この考えも、きっとウザイんだろう。

こんな事をクソ真面目に、本気で思い悩むのは誰にとっても目障りなんだろうな。

目が潤んだ。

すぐに泣きそうになる、そんな些細な体質も嫌われる一点なんだろう。

…お前さ、お前は何も考えてないんだろうけど。思わせぶりな態度ばっか取ってんじゃねえよ!!

…怒声を浴びた怖さよりも、その人の顔に浮かぶ辛そうな表情が悲しくて、何も言えなかった。

人を好きになる。一番肝心な部分にわたしは蓋をして、臆病で意気地無しだった。

でも、わたし好きになっちゃったんだよ…なあ。

また溜息が漏れかけた時に、松野家からの電話がかかってきた。

「…はい、YOUで」

『YOUちゃんっ!?ちょ、チョロ松知らない!?』

チョロ松さん…?
松代さんの焦った様な声で紡がれた彼の名前。

『昨日ふらっと出掛けたきり帰って来なくて!今日になったら戻って来るって思ったんだけど…どのニートが掛けても繋がらないのよ…』

わたしは呆然とした後駆け出した。

「…チョロ松さん!」

どの連絡手段を使っても、彼とは連絡が取れない。

「チョロ松っ…さんいないんですか!?」

荒い呼吸になり始め、目が熱くなって行く。

パンプスもスーツも走りにくい。

涙が流れて、喉に血の味が伝わる。

歩く人に手当り次第に声を掛けるも、有力な情報が何一つ得られずに。

時間も刻刻と過ぎ去り、体力が空っぽになって。道のど真ん中にも関わらずに足が動かなくなってしまった。

…チョロ松さん、チョロ松さん……!

「…うえっ……あーきっもちわる……あんなに飲むんじゃなかったな」

その時後ろから聞こえて来た、聞きたかった声に振り返れば。
紛れも無く、チョロ松さんそのものだった。

「ケツ毛燃えるわほんっ」

「チョロ松さあああん!!」

彼に勢い良く飛びついた。

「えっ!?え!?な、何でYOUっ…が」

会えた事に感情が昂って、驚いた顔のチョロ松さんに抱き着きながら、ぐすぐすと泣いてしまった。

「ちょ、チョロ松さぁっ…ん…」

「……何かよく分かんないけど…ごめん」

チョロ松さん、だ。

…良かった。

嗚咽が止まらないわたしの背中を、チョロ松さんが優しく摩った。

「……チョロ松さんっ、行かないで…」

チョロ松さんはやっぱり優しくて、大人で、わたしは貴方が好きで。

自分らしからぬ言葉が自然と言えてしまうのは、チョロ松さんが好きだから。

「うえっ!?は、はい!?いやっ僕でいいなら…」

ぐすぐすと啜り泣きながら、彼に縋った。

「……行かないって、どこにも」

チョロ松さんの言葉に力が抜けたわたしは、彼に身を任せる様にして歩き始めた。

公園のベンチに二人で座り、彼が隣にいる、その事実にようやく安心する事が出来た。

「…もう大丈夫?」

涙が治まり、わたしはこくんと頷いた。

「そっか、良かった…もう帰れっ」

その言葉に思わず、腰を上げたチョロ松さんの手をぎゅっと握った。彼が、彼の手が驚いた様に跳ねた。

「…チョロ松さん、わたし…行かないでって言ったじゃないですか…チョロ松さんも、行かないって、言ってくれたじゃないですか…!」

ボロボロと、我が儘な思いが零れて行く。

「嘘、だったんですか…?」

涙目のままチョロ松さんを見上げると、彼は少しだけ赤面してわたしの隣にゆっくりともう一度座り込んだ。

「……チョロ松さん、どこに行ってたんですか」

「いや、その………自棄酒?」

気まずそうな声が、わたしに落ちた。

「…え?」

「や、あっ…と…その…もういいか!」

聞き取れずに顔を上げると、チョロ松さんが何かを断ち切る様に首を振って、話し始めた。

「俺さ、YOUに好きって言おうと思って!会社前で待ってたんだけど…そしたらYOUが付き合い始める所見ちゃって」

…付き合い始める?

わたしが思いっ切り眉を顰めたのを、彼はどう捉えたのか、悲しそうな顔をした後に声を先程よりも変に明るく変えて、更に続ける。

「なんかもうやけになってさ…はしご酒やってたら、意識が飛んで」

はは、と彼がどこか自虐的な、乾いた笑いを零した。

「それでそのまま路上に寝てて…今、帰る所でし」

「…馬鹿じゃないんですか!?」

吹っ切れて大声を出すと、チョロ松さんへの思いが一気に込み上げた。

心配したのに、探したのに、泣いたのに。

貴方が好きなのに。

「え!?」

チョロ松さんを睨みつける様なジト目で、戸惑う彼にずいっと詰め寄る。

「いつ、どこで誰とわたしが付き合ったんですか!」

「き、昨日…会社前で、会社員、と」

『…嬉しいです、ありがとうございます』

『え、ならっ…!』

チョロ松さんが、わたし達の会話をいつ聞いたかのが分かった。

「……断ったに決まってるじゃないですか!!」

『でも、わたし…好きな人がいるので』

きっと、チョロ松さんはこの場面を待たずしてその場から去ったのだろう。

「何で怒ってるの!?」

「チョロ松さんが好きだからですよ!」

「へっ!?」

「好きなんですよ!わたし!チョロ松さんの事が!」

スイッチが入り、わたしは間発入れること無く固まるチョロ松さんに言い続ける。

その時、ぱっと口元が抑えられた。

「…そう言うの、僕が言うからっ……」

チョロ松さんが顔を真っ赤にしているのを見て、やっと自分が起こした行動の恥ずかしさに気がついた。

「…は、はい」

彼がそろそろと頭を掻いて、同じく顔を真っ赤にするわたしを見つめる。

「……ごめん、何かこんな感じになって…」

彼が申し訳なさそうにするのを見て、こんな時になんだけど、笑ってしまった。

「ふふ…わたし達らしいですね」

チョロ松さんはそんなわたしに目を丸くしたかと思うと、小さく笑った。

わたし達以外誰もいない夜の公園にする、二人分の笑い声。

それが、変にわたしの心を落ち着けた。

「で、えっと…」

チョロ松さんがリュックを開いて中を覗く。そして顔を引き攣らせた。

「……後日リベンジでも、いいかな」

「わたしは今チョロ松さんに言っちゃったんですけどね」

少し意地悪な事を言っている自覚はあるものの、クスッと笑ってチョロ松さんの方を向く。

「…好きです」

彼がその中から、3輪の緑薔薇を取り出してわたしに差し出した。

路上で寝てしまった、と言っていたし、一日リュックの中で過ごしてしまった薔薇はきっと、お花屋さんに並んでいた時よりも、彼が買った時よりも、劣化、しているんだろうけど。

今のわたしが一番求めていた物だから。

今まで見たどんな花よりも、素晴らしく見えた。美しく咲き誇っていた。

「僕は、YOUがいてくれたらそれだけで幸せでっ…でも出来たら、僕の傍が良くて…」

聞いている内に胸の中が暖かくなっていく。

「一緒にいれるのが嬉しいって思ってる。YOUと二人で話すのが楽しくて好きだよ」

素直な愛の告白に、わたしはありのままの自分で応えようと思った。

「…本気でYOUの事が好きなんだ。これからずっと僕の隣にいて下さい」

緑薔薇を受け取った。

「わたしからも、お願いしますね」

チョロ松さんに微笑むと、彼がわたしの両手をぱっと掴んだ。

「や、やったああ…!ありがとうYOU、絶対後悔っ…まだ分かんないけど、僕なりに精一杯幸せにするから!!」

嬉しそうに目を輝かせる彼に、わたしの気持ちまで明るくなって、幸せで心が弾んだ。

「チョロ松さんといれるなら、後悔なんて絶対無いですよ」

チョロ松さんはゆっくりとわたしの両手首から手を離し、顔を覆い隠した。

「可愛すぎるよYOU…もう普通に好きー……」

わたしはそんなチョロ松さんも結構可愛い、とか思いながら、何度も頷いた。

「…マジ幸せでケツ毛燃え…あ」

その時チョロ松さんがぽつっと呟いて、上を見上げた。

わたしも彼に合わせて顔を上げて、思わず声が漏れた。

「…うわあ…!」

真っ黒な夜空から、真っ白な雪がヒラヒラとわたし達に向かって雪が舞い落ちる。

「…雪だ」

「初雪ですよ、チョロ松さん!」

東京にこの時期に雪が降るなんて。

「わたし、こっちに来てから初めての雪です!」

突発的に立ち上がり、ベンチから駆ける様にして離れ、空に手を伸ばす。肌に触れたと同時に、小さな雪の粒がとろっと溶ける。

懐かしいなあ…。

それが嬉しくて笑っているわたしを見て、チョロ松さんが微笑んだ。興奮が冷めず、まだまだ座りそうにないわたしの隣に彼が歩み寄る。

「…きれー…」

にこにことだらしなく笑っているであろうわたしを、彼が見つめて口を開いた。

「…僕さ」

「どうしました?」

きょとっと首を傾げると、彼は目を細めた。

「YOUのそういう所、超絶好き」

チョロ松さんは何でもなさそうに言った様だった。

それが、益々わたしの嬉しさから来る赤面に拍車をかけた。

「…わたしも、チョロ松さんのそういう所すっごく好きです」

「……可愛すぎるって、そういう所も」

物凄く褒めちぎられてる。

二人でまた、空を見上げる。

「…YOU」

ぽーっと雪に見蕩れていると、静かに呼び掛けられて、彼の方を振り向いた。

優しくて真面目な彼に、YOU、と呼ばれると何となく特別な気がしていた。

だけど、そうじゃない。

わたしが、チョロ松さんが特別なんだ。

だから、こんなにも心がときめく。こんなにも、幸せ。

「…はい」

「今年のクリスマス、二人で過ごしてくれる…かな」

チョロ松さんが、まだまだ先の予定をわたしに確かめる。わたしは端からそのつもりなんだけどな。というか、これからのイベントを二人で全部。

小さな街灯のお陰でキラキラと降る雪は、ホワイトクリスマスを連想させ、わたし達を期待させた。

会社のみんなに、今年は裏切り者めっ!て、どやされちゃうなあ。

恋人の貴方と二人っきりで過ごせるクリスマスを、わたしは心待ちにしている。

チョロ松さんと過ごせる、これからの人生を。

「…勿論」

チョロ松さんがわたしを優しく抱き寄せる。決して強引じゃないその抱き寄せ方だけど、わたしは逃げられそうにない。

チョロ松さんのこと、また好きになってるなあ。

わたしは、身体を彼の方に向けて、目をじっと見つめた。

身体を全て預けるわたしに、彼も分かってくれたらしい。

顔をそっと、どちらとも無く近づける。

「…好きだよ、YOU」

彼の顔はまたほんのりと赤くなり始めている。
だけどわたしから目を逸らしそうに無かった。

そんな所が好きで。

「大好きですよ、チョロ松さん」

そんなチョロ松さんが大好きで。

伝えると、彼の顔が真剣味を帯びた。

近づく温度に期待感から訪れる心地よいドキドキを抱えて。

チョロ松さんはかっこいいな、と心の中で惚気けさせて貰って目を閉じた。

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作者名:なえ | 作成日時:2017年1月2日 18時

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