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こちらの第1話です。
こんにちは、語り部の斎 儚です。

これは、私たち第1期生が過ごした、3年間の物語。

それでは、物語の開幕です。

皆さん……居眠りは禁物ですよ?

*〜*〜*〜*〜*〜*〜*〜*

「は〜か〜な〜……」

ぐでーんとマットの上に転がる女の子……私のお姉ちゃんの斎 彩なんだけど。

今日は一応、入学式なんだけど……彩がこの調子なのです。

入学式まであと1時間。

なら、あと10分で出ないと遅刻。

それだけは嫌だ。
入学式で遅刻なんて。

ならばここは、強行突破で。

「仕方ないなあ……」

私は、小さな声で歌を口ずさむ。

魔法のための歌。

私の得意な魔法は幻惑魔法。
実践的では無いけれど、彩をしっかりさせるくらいなら楽勝なんだなあ、これが。

案の定、彩はぴんっと立ち上がり、すごいスピードで用意をしていった。

……何を見せたか?
内緒ですよ、その方が謎が深まっていいでしょ?

「用意できたよ、行こう、儚」

「ここまで遅れたのは彩のせいだからね!?
もう……折角の入学式なのに」

私はふてくされるように呟いて、走るスピードを上げた。

走る……とはいえ魔法を使って大幅に速度をあげているけれど。

加速魔法。

魔法を多少使える者なら誰でもできる所謂基本中の基本。

二人で桜の花弁が散る道を進めば、もうすぐ視界に。

_______ほら。

これから通う学校が見えてくる。

私たちはできたばかりの綺麗な校門をくぐり、中に入る。

そこには。

歓迎するようにたくさんの花が咲き、鮮やかに道を彩っていた。

「すごい……」

「えへへ……ありがとうございます」

突如隣から声が聞こえて、私はそちらを見る。

そこには、明るい茶色の髪をピンで留めた子がいた。

一瞬女の子かと思ったが、ここの校門が着いた男子制服を着ていることから、男子のようだ。

背は鼻あたりまでしか無い。

目はくりくりっとしていて大きいし、ほっそりとした線の細い顔つきをしている。

女子である私や彩よりも可愛い気がして、くらっと目眩がする。

「僕、さっきここに着いて……お花たちに歌を聞いてもらっていたんです。
それが僕の“魔法”ですから」

そう言って、男の子はにこっと笑った。
照れ隠しをするみたいに。

「ねえねえ、魔法が使えるってことはさ」

彩が、男の子に声をかける。

男の子は、頷いて自己紹介をしてくれた。

「はい。
音楽魔法科の入学生で、浪宮 二乃です。
お二人も音楽魔法科ですか?」

こてん、と首をかしげて聞いてくる。

「うん!
わたしは斎 彩っていうの。
よろしくね!で、こっちは」

「私は斎 儚。
彩の双子の妹です。
よろしくね、浪宮くん」

そう言って、二人で浪宮くんの手を片手ずつ握る。

「あはは、二乃でいいですよ。
僕もお二人のこと、名前で呼んでいいですか?」

「うん、全然いいよ!」

満面の笑みで二人が交わす会話。

確かに私もここにいるのに、手に触れて体温を感じているはずなのに、私だけ、私だけがいないみたい、な。

_____そんなはず、無いのに。

「……な、…かな、儚!」

「!」

彩の呼ぶ声ではっとする。

彩と二乃くんが、心配そうに見ていた。

「どうかしましたか……?
もしかして、名前を呼ばれるの……」

「う、ううん、嫌じゃないよ。
改めてよろしくね、二乃くん」

「はい!」

二乃くんはすぐに笑って、頷いてくれる。

「僕、この学校に来てからお二人以外とお会いしていないのですが……来ていないのでしょうか?」

そう言って、二乃くんは顎に手を当てた。

「え?
見てないって……来てないってこと?」

「うーん……先に講堂に行ってるだけだと思うけど」

私がそう言うと、彩と二乃くんが「ああ!」という顔で見てくる。

ちょっと待って、考えなかったんだ!?

「なるほど、思い付きませんでした!」

「儚、頭良いもんね!
わたし、思い付かなかったよー!」

彩が目をキラキラさせて言う。

なんだろう、喜んだり驚いたりしてるのは純粋なんだろうけど、こう……

二人は馬鹿なのでは、なんて思考が頭をかする。

「ほらほら、行くよー!」

「あ、え、ちょっ……」

彩は私の手を取って、講堂へと走り出す。

勿論二乃くんも一緒に。

私の中の、まだ白い、3年間の思い出は。

____少しずつ、少しずつ。

色付きつつあった。


*〜*〜*〜*〜*〜*〜*〜*
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作者名:梛霧 | 作成日時:2016年8月31日 20時

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