今日の社長！【文スト日替わり】

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今日の社長はコチラ - 2024年5月6日

2『今日の社長と風邪引きカノジョ』




熱っぽくて、だるい。

二十二年間生きてきて、わかっている。
これが自分の風邪のひき始めだと。

こんな時は、ご飯をいっぱい食べて。
大人しく休んで、悪化を防ぐに限る。

「そういうわけなんで……、諭吉さん、ご飯作りに来てくれますか？」

二十二年間生きてきたとは思えない、こんなワガママ電話に。
「了解した！」とだけ答え。

私のカレシは、すぐにアパートに来てくれた。

「何が食べたい、YOU」と。
「欲しいものを、何でも言え」と。

ベッドに横たわる私に、顔を近づけて。
心配を押し殺したような表情で、聞く。

……欲しいもの、か。

私を見つめる四十五歳は、いつにも増して、精悍で。

……欲しくなる。

ぎゅっ、て。
して欲しくなる。

これ以上近づいて、風邪が移ったら困るけど。

その腕で、ぎゅっと抱きしめて欲しい。

「YOU、言え！ 何が欲しいのだ！？」
「……ぎゅっ」

「ぎゅ？ 牛丼か！？」
「……」

私のカレシは、たまにズレている。
大真面目な顔で、方向違いのことを言う。

だけど、愛おしい。
だから、愛おしい。

私の小さな声を、聞き逃すまいと。
さらに顔を近づけるので。

今度は。
ちゅっ、て。
して欲しくなる。

風邪の時に、絶対にダメだと、わかっていても。

愛する男に、唇を奪ってもらいたい。

「YOU、何が食べたいのだ！？ 本当に牛丼か！？」
「……ちゅっ」

「中華丼か！？」
「……」

ああ、そう言うだろうな、と。
予想できてしまった私は。

この男の恋人としては、まあまあ合格点なんじゃないだろうか？

「そうか！ 米と具材を一度に食せる、丼物が良いのだな！？ 任せろ！ 牛丼も中華丼も、天丼も海鮮丼も、すべて私が作ってやるっ！」

握り拳も勇ましく、キッチンへ行こうとする恋人の。
着物の袖を、つまんだ。

「諭吉さん……。ご飯の前に、欲しいの、ある」
「？」

「……ぎゅって、して」
「！？」

「それから……、ちゅっ、て、して」
「！？！！」

まだ、風邪を移してはいないはずなのに。
驚いて見つめる、カレシの顔が。
真っ赤に染まった。

それから、すぐに。
ぎゅっ、とされ。

「……これが済んだら、私の作った中華丼も食べろ。良いな？」
「うん。でも中華丼じゃなくて、おかゆがいい。卵入りのおかゆ」
「了解した」

そして、重なる唇は。

甘く

熱く

荒く

愛に喘ぐように



私を溶かした。

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