【APH】気づけば隣にいました。

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気づけば、そこは… - 2024年5月4日

【ワイ】

「YOU！動いちゃダメだから」

「う、うん！」


一瞬、キャンバスの陰からワイちゃんが顔を出す。

ワイちゃんは手に持った木炭で私をデッサンしている。

モデル役を頼まれたので、私は椅子に大人しく座っているのだ。


静かな部屋に、木炭の削れる音だけがする。

ぬるい空気の中で、まばたきと呼吸以外の動きをせず、キャンバスの裏側を見つめる。

確かにワイちゃんはその向こうにいるのに、顔が見えない。

まるで、一人でここにいるようだ。


「ねぇ、ワイちゃん」


私は呼びかける。

ワイちゃんはさっと顔を出す。


「動いちゃダメ！」

「動かないから、喋ってもいい？」

「…いいよ」

「ありがとう」


とは、言っても、私は何を話そうとしたんだろう。

数度、口を開いて、すぐにつぐむ。

うーん…もどかしい。


「もう！YOU、喋るなら喋ってよ！」


怒られた。


「ごめんね。私、何を喋ればいいのかな」

「もう、しっかりしてよYOU、何がしたいの？」

「何がしたい、んだろう、私」


キャンバス越しにも、ワイちゃんが呆れた表情を浮かべていることがわかる。

うぅ、私、お姉さんのはずなのに…

もっとしっかりしていればいいんだけれど。

不意に、ワイちゃんが手を止め、立ち上がる。


「デッサン、休憩。外行こう」

「えぇ！？わ、私がダメなせい？」

「…YOUが辛気臭い顔するんだもん。そんなの、あたし描く気にならないもん」

「すみません…」

「ほら、その顔」

「う」


痛いところを突いてくるワイちゃんは、私の手を引いて、歩き出す。

ドアをあければ、外は快晴。

目に鮮やかなスカイブルーが飛び込む。

爽やかな風が髪を靡かせる。


「わぁ、いい天気。でもちょっと暑いね」

「うーん…帽子被ってきたほうがよかったかな」

「ワイちゃん、アイス食べにいこうよ。私奢ったげるから！」

「そのいい表情、さっきしてほしかったな」

「それは、難しいな」


ワイちゃんは呆れ笑いを浮かべる。

私はつられて笑う。


「私は、ワイちゃんのどの表情も好きだよ」


絵を描いてくれるのは嬉しいけれど、直接、声を聞き、この子の顔を見ていたい。

ちゃんと、ここにいるって実感できるから。

だから、どうか、今だけでもお姉さんの我が侭に付き合ってね。

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〜殿堂入り記念のようなもの〜掃き溜め文集【APH】

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