呪術廻戦〜貳爪探し〜

いつも通り ページ48

〜狗巻side〜

バシャバシャと水溜まりを踏もうが､泥ハネが服につこうが…自分は気にせず走り続ける

土地勘のまるでないこの場所で､融通の効かない天気…

それでも､走り続けるしかなかった

どれくらい走っただろうか

突き当たりの道に差し掛かった時､目の前を黒いタクシーが走り去った

そのタクシーのハネた泥が思い切り制服に飛んでくる

「おかか…」

不快感を覚えるほどにビショ濡れだ

これでは傘の意味はない

自分は深く溜息をつく

『…せ…した』

雨の音に紛れて､タクシーが走り去った方角からAの声が聞こえた気がした

ソッと其方を覗き見る

そこには､小さな老人2人に深く頭を下げているAの姿があった

「…？」

自分とは比較にならないほど雨に濡れている

…どうする 今出ていける雰囲気ではない

流石に他人のいるところで､いつもの悪ノリは出来ない

今は見守るしかない､か…

目を凝らして其方の様子を伺う

Aは更に頭を下げ､それを老人2人は優しく諭している…ように見えた

…しかし､こんな遠くからでも感じる

感情…呪力の揺らぎ

その感情がなんなのか､自分には説明出来ない

その時､Aが踵を返して此方に向かって走ってきた

咄嗟にサッと首を引っ込めて隠れようとしたが､あと一歩遅く…Aとぶつかり､自分は後ろのめりに倒れた

『…あ 狗巻先輩！』

「こんぶ〜…」

Aは慌てて立ち上がり､自分の手を引いて起こしてくれた

『ごめんなさい…本当に､色々とご迷惑を…』

「おかか」

いよいよもってビショビショだ…

落とした傘を拾い､Aの頭上にサッと広げる

『…フフっ もう傘をさしても意味ない気もしますけどね』

困ったように苦笑するA

言葉通り､Aの髪から水滴がポタポタと落ち続ける

「しゃけ 高菜！」

…思ったより普通？

何かあったのかと思って心配したのだけれど…

一瞬､泣いているかのように見えたその水滴は…ただの雨粒だったようだ

『…お待たせしました 帰りましょうか』

「しゃけしゃけ」

Aと自分は2人で横に並んで伊地知さんの車に向かって歩き出す

安堵感の中…自分は､なんとかやりきった という気分でいた

…そうだ 気づいてあげられなかったんだ

隣にいる後輩のことも､本心も…何もかも､見えていなかった





雨粒だと一蹴した､Aの頬を伝う水滴は…


…本当に雨粒だったのか？


今となっては､分かるわけもなかった

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