･ ページ12
.
「だから今度は、傑を正すよ」
ようやく四人、また会えたのだ。
八雲はどうしてもそれを断ち切りたくなかった。
「悟が救えるのが、救われる準備がある奴だけだって言うなら、私が、傑に無理矢理準備させる」
八雲はエゴイストなのだ。夏油の離反は彼女にとって不利益でしか無かった。
八雲にとっての利益とは、夏油が心から笑いながら自分たちの傍に居てくれることだ。
そのための手段として、もしまた夏油が離反を試みようとするならば五条を利用するつもりでいた。
でも、夏油が本当に、心底この世界が嫌になってしまったのならば。
例えそれが八雲の不利益だったとしても、すべきことは分かっていた。
「しかし、それは…」
七海は言葉に詰まってしまった。
八雲が言う事は理想に過ぎないのだ。
上手く事が進むはずなんてない。七海は前世で嫌という程知っていた。
唯一の同級生も、唯一自分が尊敬した先輩も、上層部によって殺されたのだから。
夢は見るものでないと、七海は思い知らされた。
「うん、そうだね。これは全部私の理想で、叶わないこともわかってる」
「もし、叶わなかったら？」
「殺すよ」
八雲の声は凛としていて、真っ直ぐだった。
ヒーロー科の教室はもうすぐ目の前にあった。
五条夏油家入は興味深そうに教室を覗いていた。
七海は、自分よりも随分と下にいる八雲を盗み見ようとしたが、八雲はこちらをしっかりと見詰めていた。
七海は視線を、逸らすことが出来なかった。
八雲は、今度は自分自身に言い聞かせるようにまた、言った。
「殺す」
「…なら、いいんです」
七海はその姿に恐れを抱いていた。
八雲にはもう既に彼を切り捨てる覚悟が出来ていたのだ。
きっとそれは、八雲だけでは無い。
夏油の隣で楽しそうにする五条も、呆れた顔をする家入ももう既に、覚悟は出来ているのだろう。
その上で彼──夏油と居るのだ。
やはり、この人たちは恐ろしく強い。
その強さを七海は信用していたし、信頼していた。
この人達ならもう大丈夫だろう。今ここで七海は、そう確信した。
一方の五条は一人の男子生徒を面白そうに見つめていた。
「君、名前は？」
「ぼ、僕は、緑谷出久ですッ！」
「ふうん、」
「緑谷雄英受かったんだ、良かったじゃん」
「い、いいい家入さん…」
五条らに捕まった生徒、この世界において主人公である緑谷出久はもう失神目前であった。
.
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 2669人がお気に入り
お気に入り作者に追加
この作品を見ている人にオススメ
この作品を見ている人にオススメ
「ヒロアカ」関連の作品
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告感想を書こう！(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
あお - 間の開け方とか言葉選びとかすごい良かったです！！ (2022年8月28日 20時) (
レス) @page18 id: c1da01ed72 (このIDを非表示/違反報告)
トマトまと(プロフ) - 呪術師側のイカれ具合とか、ヒーローに対する嫌悪とか、全て大好きです。 (2022年1月2日 15時) (レス) @page50 id: 1d9d2ab89b (このIDを非表示/違反報告)
あかし - あくまで私個人の感想です。書き方やオチ希望してる方がいますがこれは作者様の作品です。書き方も展開も終わり方も全て作者様の自由です。私はこのままの作品が好きですし、作者様の自由にして下さい。言葉選び、文脈全てが大人で素敵です。これからも応援しています。 (2021年8月7日 14時) (レス) id: 9951821a6a (このIDを非表示/違反報告)
天宮 - 誰が喋っているのか聞いてくれないとわかりません。 (2021年6月28日 8時) (レス) id: 453c097156 (このIDを非表示/違反報告)
天宮 - 誰が喋っているのか聞いてくれないとわかりません。 (2021年6月28日 8時) (レス) id: 453c097156 (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：ずんだもち | 作成日時：2021年2月11日 11時
