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アランは出生時、とても病弱だった。両親がともに優等な魔法士であり、周囲の期待の中生まれた中で、その事実は多くの人を心労の渦に突き落とした。あわや命が危ぶまれるという状況で、両親はついに、究極の選択を下す。我が子は、優秀に違いない。それならばこんなものは、けして損失ではない。
彼らは錬金術で、アランの命を無理矢理に補強した。余りある祝福を、溢れるような祈りを、息吹なき四肢に吹き込んだ。
当然、錬金術においては、死者の蘇生は禁忌である。彼は一度死に招かれたのにも関わらず、その手を強引に振り払われてしまったのだ。……いつでも希望あるものは、代償を伴って為されるものである。両親の魔法は塵のごとく弱体化し、彼の右眼は永遠に失われた。両親は、覚悟の上だった。代わりに、その子どもにひどく大きな期待を寄せた。そのための用意も万全に、幸福に、充実した日々を切望した。
ーーでは、肝心の彼は？ 彼は今まで何を望み、何を叶えてもらった？
幼い頃から、彼は自覚していた。自分は二人の生んだ最高傑作で、他者より明らかに恵まれた体質の優等生であること。同時に、その箔がつかなくなった自分には、ひとつの価値もないこと。
「おまえを助けてやったのだから、その代わりの恩返しをしろ」。
その声に十二分に答えられるほどに、彼は優秀であった。しかし、彼も人間である。期待を背負った上での勉強は、文字通り彼の健康を切り詰めて達成されるようなものだった。人からは見上げられても、当の自分は納得できない順位ばかりしか取れなかった。要は、彼は全てが優秀であったが、全て一位にはなれなかったのだ。それでも、勉強しか得意なものがなかった。
大学課程を修了したのちに、彼は教育者になった。最後の最後まで、非常に優秀な成績を修めていた。一番には、なれなかったが。
彼の空洞の瞳は、いつも誰かを見透かしている。誰かを理解することのみに、彼の欲求は向いている。……自分でも、そう考えている。
彼の唯一の自己肯定。それは、自分が「可愛い」ということである。
あまりの幼稚さ、その単純さから、アランもまだ信じてはいない。いつか誰かに気づかされたとき、その自信は、満足感へと変わるだろうか。
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