検索窓
今日:1 hit、昨日:0 hit、合計:2,780 hit

ページ12

瞬間、机がギイ、とひとりでに動いた。ペンが導かれるように、彼の手元へと吸い寄せられていった。彼の冗談混じりの指示の、そのままに。本は、かつて教会が“救済”した魔女の持ち物。書かれていたのは、基礎から応用にまで多岐に渡る、魔法の呪文であった。何より驚くべきことに、兄は、その魔法を使いこなせる魔女であったのである。

大変な秘密を抱えてしまった。幼いながらに兄弟は、目を見合わせてその真実を隠し持つことを決心した。
兄は熱心なアルジェント教の信者であった。たった今、その時までは。
弟は思う。「兄ちゃんのために吐く嘘は、正しいんだ」、と。
「オレも、兄ちゃんを、守りたい!」、と。

しかし、暫くして。兄が魔女である事実は、発覚してしまう。ブルーノが、階段から落ちて大怪我を負ってしまったのである。完全な、事故であった。
頭を打って、血塗れだった。全身から、すうっと意識が抜けていくような気分がした。兄ちゃん、にいちゃん、なにを、なにをいっているの。
声は聞こえないけれど、スローモーションのように流れる、口の動きで分かった。─────フィルウェル。かいふくじゅもんの、まほう。
ぽうっと、光が差した。それで、知覚する。ダメ、だめでしょう、兄ちゃん。魔法は人間界で使っちゃ、ダメ、ましてや、こども会で使うなんて。

もし、誰かに見られて……い、たら。
大怪我のせいだろう。ブルーノは、そこで意識を失った。

目が覚めたとき、兄は既に里親に引き取られていた。どうやら半年もの間、昏睡状態であったらしい。神経の問題で、使えなくなってしまった右足は切断されていた。
「可哀想に」「本当にな」「哀れだよ」「なんてこと……」「まさか、お兄さんに傷つけられる(・・・・・・・・・・・)なんて」

え、と耳を疑った。違う。違う、そんな筈はない。だって、オレが落ちたのは本当に、事故で。たまたま下にルースが、居たから。
「ああ、泣かないでブルーノ」「私たちが守ってやらなければな」「食事だよ。さあ、お祈りを捧げて」「悪しき魔女から救われた命に」「我らの神に選ばれたその命に」「感謝と、賛辞を」……。
違う。違うよ。ねえ、違う、違うん、だよ。
そう言いたかった。けれどそれを聞き届けてもらうには、彼は幼すぎた。いつしか、違うと分かっていながら、兄のことを否定する一人になっていた。

*→←*



目次へ作品を作る感想を書く
他の作品を探す

おもしろ度を投票
( ← 頑張って!面白い!→ )

点数: 10.0/10 (2 票)

この小説をお気に入り追加 (しおり) 登録すれば後で更新された順に見れます
オリジナル作品
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告

感想を書こう!(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)

ニックネーム: 感想:  ログイン

作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ

作者名:松宮カナメ | 作成日時:2022年5月21日 0時

パスワード: (注) 他の人が作った物への荒らし行為は犯罪です。
発覚した場合、即刻通報します。