幕間4〜昔は大変だった〜 ページ28
自分の正体を包み隠さず話すと、彼は心底驚いていた。どうやら異種族と話すのは初めてらしく、気付かなかったようだ。
彼は元々普通の動物ともコミュニケーションが取れるのだというのだから、それよりも知能の高い異種族相手なら会話ができて当然だろう。
ちなみに猫魈という名前は初耳らしく、結局最後まで覚えてくれなかった。
「猫、お前の名前は何なん？」
「俺はショッピっす」
「んじゃ改めてよろしくな、ショッピくん」
こうして「不法滞在の犯罪者」と「異種族と喋れる人間」の誰にも秘密の生活が始まった。
──────────
少年のことは｢ゾムさん｣と呼ぶことにした。
彼には｢希から取った｣と伝えているが、本当は違う。
数世紀前までウィラスティアに実在した幹部……その人物のことを、俺はかつてそう呼んでいた。
その男の存在は唯一無二として語り継がれ、今も国の首都にある城内には彼の空席と空き部屋が残っている。
この世界のあらゆる生物には、生まれ変わりの概念があるという。
そして彼と希くんは、姿や雰囲気によく似た節がある。
異種族が人間に転生することだってきっと……
こんなことを言ったら幹部達は怒るだろうから、これは俺の心の内に閉まっておくことにした。
──────────
彼が一人暮らしをしているのは、1年前…小5の時に両親から家を追い出されたかららしい。
何がいけなかったのか全く分からへん、と彼は言った。
毎月玄関ポストに放り込まれている大金だけが、生活の頼りだった。
──────────
小学校では彼はひとりぼっちだった。
運動神経が良くて、尚且つ誰もが振り向く程の整った顔立ち。当然、学校中の女子の憧れの的だった。
それを気に入らない男子達に、放課後はいつも追い回されていたのだ。
おかげで6年間ろくに友達もできず、ずっと1人で過ごしてきたらしい。
「俺時々思うねん、人生ハードモードやなって…前世でなんかヤバいことでもしたんかな」
「確かに辛いけど、そんなん別にええねん。あいつら全員足遅いし」
「俺ショッピくんがいなくなるまでは、人生楽しめる自信あるわ」
そう言って笑う彼の瞳には、爛々と燃えるエメラルドが宿っていて。
この年でこんな経験をしているとはとても思えない、年相応の、綺麗な瞳だった。
────やめてくださいよ。
そんなこと言われたら、離れずらくなるでしょ。
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作者名：カキ | 作成日時：2022年8月3日 2時
