1.とある一般生徒のぼやき ページ2
時折、自分になんでもできる神みたいな力があったら、と考える時がある。
もちろんだからといって何かをしたいわけでもない。富も名声も今はいいから、とにかく暇が潰せればそれでいい。
こういう馬鹿げた妄想は、いつだって些細な物事がきっかけで生まれる。
俺の場合はというと────
「……であるからして、今年も問題を起こすことなく中学校生活を全うできるよう、心がけてください」
────春といえばの新学期、始業式の真っ最中。
……典型的なシチュエーションや。クソつまらん。
交通安全、校内のルール…その他諸々の長話は無視して、校長の髪の毛をぼんやりと見つめる。
ここだけの話、多分あのふさふさヘアーはカツラや。半年くらい前は、髪型はもうちょい右に偏っていた気がする。
訓練された教師陣が放つ怒濤の催眠攻撃に、不真面目な俺のまぶたは確実に重くなっていく。
……というか本格的に眠くなってきた。
アカン、耐えるんや俺…いつか絶対その
霞む視界の中必死に神通力(脳内)で校長への悪戯を実行していると、左から何かを引っ掻くような音で邪魔が入った。
小さく、しかし明確に耳障りな音にぐらりと首をもたげる。すると、窓越しに座る猫と目が合った。
真っ黒な毛並みに、キラリと光る紫の瞳。音の主は間違いなくコイツだ。
ソレはどうやら俺のことを見ているらしく、じーっと睨んだまま動かない。わけが分からずこちらもジト目で対抗すると、猫は更に目を細めて睨み返してきた。
「話に集中しろ」…とか言いたいんかな。
────うん。全然話聞いてへんかったけど、何とかなりそうや。
そう判断した俺は早急に目を閉じ、睡魔に身を任せてうつむいた。
意識が落ちる寸前、誰かの嫌味ったらしいため息が聞こえた気がした。
────────
────
あれから俺は教頭による校歌合唱の号令で飛び起き、半ば夢見心地でふにゃふにゃと歌を口ずさむ羽目になった。
俺の体が不安定だったばかりに隣のよく知らんクラスメイトに支えてもらったのはきっと夢や、忘れよう。夢じゃないなら俺は多分二度とあいつと顔を合わせられない。
始業式は終わり、そのまま解散の流れに。
ふと窓の方を見ると、あの猫はもういなかった。
「おーい颯真、列動いたよー」
まだ名も知らぬクラスメイトに名前を呼ばれ、我に返る。
俺はフードを深く被り直し、足早に同級生達の列の最後尾へと向かった。
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作者名：カキ | 作成日時：2022年8月3日 2時
