木枯らしが枯らす木4 ページ4
心を少し落ち着けてから、眼鏡は告げる。
「知っての通り、俺はあまり贈り物やお返しをしたことがないんだ。そういうのに造詣が深いと思ってお前を頼ったんだが?」
「それは光栄なお話だ」
未婚とはいえ、公務員の部類だったのだから、贈り物に関しては話題に事欠かなかっただろう。まあ公務員で贈り物が発生するのは時節柄だったり結婚祝いだったりするが。
顎髭にセンスがあるのは確かだ。Zionで奏者が演奏しているとき、ファッション批評をしていたことがある。眼鏡は興味がないのであまり真剣に聞いていなかったが、確かに似合うだろうな、とは思った。
「まず、形に残るものと消えものならどっちがいいだろうな」
「好みによるけど、マフラーやコートをもらったんだから、形に残るものを返したらいいんじゃない?」
形に残るもの。まあ真っ先に上がるのは服だった。
「服は敷居が高いよ。特に、女性に贈り物するならね」
「なんでだ?」
「サイズがあるだろう? それにいい年したおじさんが婦人衣料品を見て回るのは不審者と勘違いされても仕方ないね」
「それは嫌だな」
「でしょ。まさかスリーサイズ聞くわけにもいかないし」
そこまで凝ったものでなくてもいいのか。あまり興味はなかったが、贈り物で服を贈るカタログはなかったように思う。そういう事情があるんだな、と眼鏡は理解した。
カタログ繋がりではないが、先程まで結婚云々の話をしていたので思いついたことがある。
「装飾品を贈るのはどうだろうか」
「それは確かに女性は喜ぶねえ。でも君、そういうのは想い人に贈るものだよ」
それも的確な判断だった。指輪やネックレス、ブローチ、装飾品は様々あるが、ロマンチックな場面で渡すという認識があるのは眼鏡とて同じだった。第一、指輪などは結婚した証として使われる。
ぎりぎりブローチやネックレスはありかもしれないが、渡す相手は元妻と倅の嫁である。元妻はともかく、既婚者に装飾品の贈り物をするのはよからぬ誤解を生みかねない。
悩む眼鏡を前に、顎髭が口を開く。
「そんなに悩むことないんじゃない? コートもマフラーも寒い時期だから贈られてきたんだろう? それなら、その趣旨に乗っかって、寒い時期の贈り物っていう風に考えればいいんじゃない?」
「マフラーとかか?」
コートはサイズがわからないので、マフラーを提案してみるが、顎髭は難色を示した。
「同じものを返すっていうのはどうなんだろう。それより僕はブランケットがいいと思うけど」
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作者名：九JACK | 作成日時：2021年2月27日 3時
