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歌への愛3 ページ11

翌日のことだ。
鼻唄を歌いながら、歌手の女性はマスターの手伝いをしていた。ピアニストは何やら必死に譜面を目で追っている。
眼鏡は歌手の鼻唄が聴いたことのない歌だということには気づいていた。だが、どこか懐かしいようなメロディラインで、郷愁を掻き立てる雰囲気がある。
「何の曲だい?」
仕事が早く終わったらしく、まだ日の沈む前から酒を嗜み始めていた顎髭が歌手に尋ねる。下戸のくせに酒が好きとは難儀なやつだ、と毎度ながらに眼鏡は思った。
そんな顎髭にお冷やのグラスを持ってきて、歌手の女性は微笑んだ。いや、「微笑んだ」の一言だけではその雰囲気の表現には見合わないだろう。何か誘うような妖艶な笑みを灯し、いきいきと煌めいた様子を振り撒く。無邪気さと艶やかさ、本来なら同時に存在し得ないものがこの女性によって成されている。魅力に果てのない女性だ。
「ふふ、それは夜のお楽しみですわ、おじさま」
「焦らし上手だなぁ」
気になって仕方ないじゃないか、とかっかっと笑う顎髭に、眼鏡は大きく頷いた。

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作者名:九JACK | 作成日時:2019年10月25日 13時

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