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口を噤んだ彼女の横で、ひらりと薄桃色が踊る。
手持ち無沙汰にスカートの裾を握りしめて、大きく息を吸った。
「おれ、Aちゃんのことすき。付き合って、ほしい……です……」
小さくなっていく言葉の節に、走って逃げ出したくなる情動を押さえ込んで前を向く。
満開の花弁が散るように、静かに、ゆるやかに。やがて風に巻かれて勢いを増す桜吹雪に煽られるようにして、彼女と目を合わせた。
今だけ逸らさないでと強く願って。
「……私、先輩だよ？年上、だし」
「俺はAちゃんのこと、先輩って呼んだことないもん」
「なにそれ、ただの失礼じゃん」
「……一目惚れってこと」
「もう、わざわざ言わなくていいよ」
「付き合ってほしい。だめ？」
忙しない鼓動も、熟れる頬も。早く答えを聞いてしまいたいようで、永遠にこの時間が続けばいいのにとも思ってしまう、花が散るまでの刹那。
「……ごめん、付き合えない」
わかりきっていた結末に、肺へ溜め込んだ呼吸を吐き出す。
「うん、わかった。でもAちゃん、俺の事全く意識してないわけじゃなかったじゃん、理由だけ、教えて」
「……私も、たらこくんのことすき……だよ、うん。でも、私が行く大学遠いから一人暮らしになるし、そしたら遠距離だし。言い方悪いかもだけど、未成年と付き合うのも、ご両親とかさ、んー、いろいろあるじゃん」
「そっか」
「……ごめんね」
「いや、Aちゃんが俺のこといっぱい考えてくれた結果やん。なら、べつに……ありがと」
口の中で、じんわりと血の味がした。交わっていたはずの視線は、どちらが先だったのか、既に床へ落ちている。
笑え、と念じても口角が震えて、何も言わないままばいばいなんてしたくはないのに、喉に声が詰まって出なかった。
やわらかく、あたたかく、世界が滲む。
遠くの方で聞こえる誰かの笑い声に被さるように、彼女の踵が鳴った。
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