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「だからさ、気なんて使わなくていい、よ…」

私は棘くんにそう言い、再び俯く。
やばい、勝手に私が自滅しただけなのに涙が溢れてしまいそう。泣くな、私が泣く所じゃないだろう。
恥ずかしさと、苦しさと、自分への苛立ちで胸が苦しい。こんなもの、どこかに吐き出せたらどんなに楽なのだろうか。

そんな私の心を嘲笑うかのように、外でちゅんちゅんと雀が鳴き喚き始める。
うるせぇうるせぇ。恋に敗れた乙女を笑うなクソ雀。

しおらしくなっていた私の心は雀のせいで荒み、何もかもがどうでも良くなってしまう。

ああもう、教室も私の頭の中も騒々しい。煩わしい。
なんて、すぐに乙女らしさの欠片もない素の心に戻り始めた時だった。


ちう

一丁前に憧れ続けたそんな音が、喧騒を掻き分けて私の脳内に大きく響く。
…なんて言うんだっけ、これ。

唇に一瞬伝わった柔らかい感触。頬に添えられた手の温もり。熱くなる自分の身体、ぱちぱちと霞む目の前の景色。

知らない。私の知らないモノだ、これは。


「しゃけ」

その知らないモノとは、私の唇と彼の唇とが重なったことであると理解するには、些か時間がかかった。
世ではそれをキスとでも呼ぶのだろう。


だけど、理解が及ばないのも仕方ない。
…だってこんなこと、今この高専の敷地をゴジラが侵略してくるくらい有り得ないと思っていたから。
憧れはしつつも、憧れに浸るだけで、初めてだったから。

嬉しさと驚きと恥ずかしさで、氷が水になるかのように溶けてしまいそう。


自分でも思う、私は単純だ。
羞恥も後悔も苦しみも全て、彼の唇に拭い取られてしまったのだから。
本当に、君は狡い。私よりも狡いんじゃないかって、思ってしまうよ。

!→←き



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作者名:しらたば | 作成日時:2021年1月26日 22時

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