零の贖【地縛少年花子くん】 (ページ25)

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ぴちゃぴちゃと地面の水が、足を動かす度に響く。

黒い本が集まっている棚を、上から下へと確認していった。

確か、七番の名前は__。

「…あった。柚木普。」

少し前、保健室である二人が話していたのを聞いた事がある。
良かった、盗み聞きしておいて。

ぱらぱらと開いて未来の部分を見ようとした。

その赤を見つけた時。
ふと目に飛び込んできた事実に手が止まった。

弟を、殺している。
あんな若くに死ぬ筈では無かった。

それ以上覗いてはいけない気がして、すぐに未来のページを開く。

しかし瞳は七番のこれからを映しているが、脳にそれが入ってこない。

動揺している、と思う。
分からないけれど、体の芯がぐらぐらと揺れているのは分かった。
七番は一体、どれだけの事を抱えているの。

あちらこちらに思考が散っている。
本当の目的を果たす為、一旦落ち着こうと目を閉じた。

大きく息を吸って、吐く。

一度忘れよう。
七番の事を考えるのは後にして。

そうして目を開け、本に視線を落とすと
手元から本が無くなった。

ぱっと顔を上げると、不審な目をした七番が。

「え？あ…七番…。」

「また来てると思ったら…。何で俺の？」

「……。」

何も言えない。
言い訳も見つからないし。

居たたまれなくなって目を背ける。
きゅっと唇を結んでいると、頬を包まれて強制的に前を向かせられた。

「ネェ、なんで？理由は？」

「……言わない。」

「言って。」

「しつこいよ。」

じっと七番の目を見つめて言い放つ。

深い橙の瞳。
吸い込まれてしまいそうね。
その奥の奥に何が隠されてるのかな。

無意識に左手が動く。
頬にそっと指先が触れて。

熱の持たない感覚に我に返り、直ぐに手を引っ込めた。

「……誰かが居なくなるって、どうしようも無いくらいに悲しいよね。」

「急に何のコト？」

「その近くに居る人が壊れていくのも凄く辛い。」

七番から、するりと離れてふわりと振り向く。
本心を悟られない様に、悪戯な笑顔を浮かべてみる。

「気が変わったよ、七番。」

「意味が分からないんだケド…。」

眉間を寄せる彼は、何も分かっていない。
分からない方が良い。

けれどこれから、その道を進むのだ。
未来はどうしたって変わらない。
七番の死期が変わった様に、全部がそうはいかないのだ。

それでも、やらなければならない事がある。

本を取られた時。
ちらりと見えたひとつの単語。

"断絶"

「私もネネちゃんを守るよ。」

そんな事、私が絶対にさせない。