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ちゅんちゅんと雀がさえずる声。

少し重たい瞼を上下させて、昨日出来なかった仕事を片付ける。

印をひとつ押す度に、書庫での出来事が蘇ってきて。
全く集中ができずに、勢い良く頭を抱えた。



「あ"ーっ。なんなんだ、本当に。」



そもそも彼奴は私の事が嫌いだったのでは?
会う度に虫を潰した様な顔をしていたし。

だったら抱擁なんてしないで欲しいね。
まぁ私が泣き出したのが悪いとは思うけども。

でもされたってことは、少なくとも嫌悪はしていないのか?
分からない、解せない。


言葉に出来ない心情を唸りに変えて、取り敢えず手を動かそうと判子を持つ。
が、ふわりと髪を撫でられる感覚が頭から離れず
また声を荒げるのだった。





×××





全て朱を押し終えた時には、もう日が暮れていた。

予想を遥かに上回るスピードの遅さに
七番、お前の所為だ
とほぼ八つ当たりの悪態を付く。

らしくないなと思いながら色が濃くなった空を仰いでいると、後ろで扉が開く音がした。

その音の大きさに反射で振り向く。
此処に誰かが来る事なんて無いので、少し警戒心を強めて。

けれど其処には何も居ない。

無意識に眉を寄せて、目線を下げると



「……勿怪?」



瞳を潤わせている、小さな怪異が。

何かがあったと察して身構える。



「ねね、危ない。」


「れいばん、たすけろ。」



一瞬、時間が止まった様な気がした。
いや、実際に止まっていたのではないだろうか。

そう思う位に、理解するまで時間がかかった。

それでも我に返り、瞳孔が開いていくのが分かる。

考えるより先に身体が動く。
咄嗟に部屋を飛び出していた。

心当たりのある場所へと足を動かして、先刻まで頭から離れなかった男をまた思い浮かべる。


何やってんだ、彼奴は。
救いたいなら守り抜けよ。


噛み締めた唇から、鉄の味が広がった。

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作者名:透空 | 作者ホームページ:なし  
作成日時:2020年11月3日 0時

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