柚子ポン酢の備忘録：其の弐

続き ページ42

探偵社に組合がやってくる。

「そういえば、探偵社には国宝クラスの宝があると聞いた。よければ買い取りたいのだが」

フィッツジェラルドの言葉に江戸川咲夜は僅かに顔色を変えた。

「(私は、また…居場所を奪われてしまうのか)」

でも、探偵社を守るためなら…

「あ、の「駄目」っ、」

口を開いた十六夜を鋭い声で止めたのは江戸川乱歩であった。

「…馬鹿なことは考えないで」

「っ、でも…！」

「僕も社長もあんな成金に君を渡す心算は微塵もないから」

十六夜は顔を俯け、黙り込むのだった。

ーー…
「乱歩さん、さっきのはどういうことです？」

「お前は前から咲夜のことを探ってたな、太宰」

「えぇ、正直怪しい部分しかありませんでしたから」

乱歩さんと社長を疑いたくはないんですけどね。

「…そんなだからお前はまだまだなんだ、太宰」

乱歩は呆れたように言った。

「人間の物差しで見れば確かに咲夜には違和感があるだろうね」

「人間の、物差し？」

まるで咲夜ちゃんが人間ではないと言わんばかりの言葉ですね。

「大正解！やっとわかったのか」

「…は？」

「咲夜は人間じゃない――現世から失われた幻の短刀・十六夜藤四郎に宿る付喪神さ」

短刀の名手である粟田口吉光が作った最初の短刀にして、最高傑作の一振り。

「探偵社だけでなく、あの子は…日ノ本の宝なんだよ」

「…日ノ本の、宝」

「そ！…売ろうものならこの国は平気で傾く、まさしく傾国の刀さ」

そうじゃなくても、あの子は社長と僕の懐刀…

「……あんな成金野郎に、渡すわけがない」

乱歩はその翡翠色の瞳を鋭くして言った。

「…本人、いえ本刀は乱歩さんと社長に思われていることをわかってなさそうですが」

「あの子は自己評価が底辺だからね」

それに関しては恨むよ、…あの子に全てを背負わせた刀剣男士を。




(もし君たちが十六夜を迎えに来たとしても、絶対に返してあげないから)

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