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「うそ。」
「…嘘じゃないです。」
「嘘でしょ。」
「…うそじゃ、な、い」
「じゃあなんでそんなに泣きそうな顔してるの」
「なきそうなかお、なんて…して、な、い」

言葉を阻むように喉の奥が熱を帯びていく。

目頭が熱い。

するりとしずくが頬を伝った。

「だって、だって」
「うん」
「わたし、なにも、もってない、…あなたにあげられるものなんて、なにもないし、」
「…」
「姫でもないし、なにも、してあげられない。」

言葉が喉から次々と溢れてくる。

止めようと思っても、止まってはくれなかった。

ぐすぐす、と涙を拭おうとおもったとき、ぐっと力強い腕が私の腰と肩にまわった。

「…ばかだねえ」

ぎゅうっと腰と肩にまわった腕にきつく抱きしめられる。

抱きしめられていると気づくのに、時間がかかった。

「え、」
「もう十分だよ」
「なに、が、」
「…もう十分、Aからもらってるよ。」
「そ、んな、わたしあなたになにも…」
「君が気づいていないだけ。私はもう、十分なんだ。」
「…」

私が、雑渡様にあげているもの…?

「君がいれば、それでいいんだよ。」

でも、と言おうとしたけれど、雑渡様の腕にまた力が入って、続きを紡ぐことはできなかった。

その代わり、そろそろと腕を回して、抱きしめ返した。

「ねえ雑渡様、名前を呼んでくれたの、初めてですね。」
「…」
「雑渡様」
「…そう?」
「もう、そうですよ!なかなか呼んでくれないのですもの。」
「…それならAも、私のこと名前で呼んでないでしょ」
「そ、それは」
「ほら、呼んでみて」
「ええ、」
「ほらほら」
「あ、う…こ、こ」
「ん?よく聞こえない」

カッと頬が赤くなるのがわかった。

「ひどい、からかってるんでしょう!」
「ふっ」

すっと手をひかれ歩き出す。

見上げると星空が広がっていた。

「あ、流れ星だわ!」
「ほんとだ」
「あそこにも!」











流れ星を見つけて瞳を輝かせる彼女の横顔をじっと見つめる。

「それでいい」
「…?何がです?」
「なんでもないよ。」

不思議そうにこちらをみた彼女の顔は、また星空へと向いていた。

それでいい。

笑っていてくれるだけでいい。

それだけで、十分なんだ。

彼女はなにもあげられないと泣いていたけれど、自分にとっては取るに足りないことだった。

彼女の笑顔はそういうものの価値を遥かに超えて自分の心に存在している。

彼女の笑顔が見られるだけで、十分なのだ。

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設定タグ:忍たま , 雑渡昆奈門 , タソガレドキ   
作品ジャンル:恋愛
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ゆき - ハナイツキさん» 今までお付き合いいただき、本当にありがとうございました!最初の方から何度もコメントを頂いて、本当に励みになりました!感謝の言葉しかございません。さらなるいちゃらぶを目指しますので、続編もよろしくお願いいたします! (2023年5月2日 23時) (レス) id: 11850f2a40 (このIDを非表示/違反報告)
ハナイツキ - 完結お疲れ様です!本ッッッッ当に大好きな小説です!もう雑渡さんにキュンキュンしまくりで、最後の結婚のくだりでは涙ぐみながら読むくらい、、続編も読ませていただきます!雑渡さんとのいちゃラブ生活のご提供、本当にありがとうございました!!! (2023年5月1日 23時) (レス) @page50 id: a0586360be (このIDを非表示/違反報告)
ゆき - ミリリン(・ω・)さん» 最後までお付き合いいただき、ありがとうございました。続編も書こうと思っておりますので、気長にお待ちいただければと思います。続編もよろしくお願いいたします! (2023年3月28日 23時) (レス) id: 11850f2a40 (このIDを非表示/違反報告)
ゆき - astrumさん» 最後まで読んでいただき、ありがとうございました!続編については、書いてみようかなと思っております。続編の方も、よろしくお願いいたします。雑渡さんとのいちゃらぶ生活…頑張ります笑 (2023年3月28日 23時) (レス) id: 11850f2a40 (このIDを非表示/違反報告)
ミリリン(・ω・) - え?好きです。 ヤバイですね むっちゃ面白かったです! 続編出たら絶対読みます。 気長に待っています! お疲れ様でした! 素敵な作品をありがとうございました! (2023年3月28日 21時) (レス) @page50 id: 5a9db1aae6 (このIDを非表示/違反報告)

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作者名:ゆき | 作成日時:2022年1月30日 0時

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